この日の演説・シュプレヒコール

「中国共産党は反日、共産、中華の三悪国であり、敵国であります。我が国土である尖閣諸島を侵略しようと妄動する中共は、撃ち破らなければなりません。昭和47929日、我が国は中共との国交を樹立しました。この間、主権侵害、内政干渉、領土および領海の侵犯など、中共による敵対行為は数限りなく繰り返されてきました。中共との友好は断じて存在しません。」

「中共の脅威にさらされているのは、我が国だけではありません。南モンゴル、東トルキスタン、チベットに対する侵略・虐殺など、また台湾に対する併合の野望、並びに中共に支配されているすべての人民たちの苦難、中共の存在はアジア全民族の脅威であり、人類の敵と断言できます。・・・戦おうではありませんか。」
 「暴戻国家、共産支那を粉砕せよーーー!!!(ふんさいせよーーー!!!)」
 「泥棒国家、コソ泥国家、犯罪国家、中共を糾弾せよーーー!!!(きゅーだんせよーーー!!!)」
 「中共は歪曲した歴史観を改めよーーー!!!(あらためよーーー!!!)」

「中共の侵犯漁船は即刻、轟沈せよーーー!!!(ごーちんせよーーー!!!)」
 「日中!!!(だんこー!!!)中共!!!(ふんさい!!!)」

いかがでしたか。そして、どう思いましたか。

「中国共産党は反日、共産、中華の三悪国であり、敵国であります。」右翼民族派が勝手にそう思っているだけでしょう。彼らの言う「反日、共産、中華」がどのような概念が知りたいところです。中国のどこまでが本当に反日でしょうか。中国共産党が求心力を保つために意図的に「反日」を利用しているのは理解しますが、こちらが彼らの憎悪する「日本鬼子(日本人に対する蔑称)」を率先して演じる必要はありません。共産主義にしても、(現実に作られた共産主義国家の実情は別として)本当に悪でしょうか。マルクスやレーニンが意図したことはどこにあるのでしょうか。同様に中華思想も本当に悪なのでしょうか。中華思想とは、中華民族(漢民族)が周囲の文化的に遅れた国に対して世界の中央に位置する文化国家であるという思想です。その下で、朝貢(他国が中国に貢物を差し出し、中国がそれに対する礼として物品を与える体制)や冊封(中国皇帝と他国の王が形式的な主従関係を結ぶこと)を通じて文化的に他の民族(日本も)に対して優越してきました。中華思想とは悪く言えば他民族に対するお節介なのですが、これが中国の横暴の原因とは言えません。

「我が国土である尖閣諸島を侵略しようと妄動する中共は、撃ち破らなければなりません。」打ち破るとはどういうことなのでしょうか。中国共産党を打倒するということでしょうか。打ち破らなくとも、対話によって解決することができるのではないでしょうか。中国共産党に代わる統治者がいないところで中国共産党を解体すれば、中国は混乱に陥るでしょう。そのような状況に日本が自ら巻き込まれに行く必要はありません。

「昭和47929日、我が国は中共との国交を樹立しました。この間、主権侵害、内政干渉、領土および領海の侵犯など、中共による敵対行為は数限りなく繰り返されてきました。中共との友好は断じて存在しません。」「日中!!!(だんこー!!!)中共!!!(ふんさい!!!)」今までの日中関係に友好関係は本当に存在しなかったのでしょうか。日中関係は本当に消えて良いものなのでしょうか。政治的な関係は全く安定していませんが、経済や文化交流の面では現在も発展し続いています。この関係を断ち切って何の利益があるのでしょうか。今日本の産業は中国なしにはほとんど成り立たず、中国の経済は世界経済に大きな影響を与えています。また中国は外交面でも大きな影響力を持っています。日本と中華人民共和国が国交を断絶すれば、日本の政治・経済だけでなく、全世界の政治・経済に重大な影響を及ぼすでしょう。

「中共の脅威にさらされているのは、我が国だけではありません。満州、南モンゴル、東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)、ウイグル、チベットに対する侵略・虐殺など、また台湾に対する併合の野望、されに中共に支配されているすべての人民たちにとり、中共の存在は・・・脅威である。人類の敵と断言できます。」たしかにチベット人をはじめとする少数民族の弾圧は許されるものではありません。少数民族の独立を支持する声をあげることはかまいませんが、私はそこに大きな危機感を感じます。それは、独立した少数民族が主権国家として自立していけるかということです。まず、現在の少数民族に政治のノウハウがあるのでしょうか。それがなければ独立後に内戦が起こるか、失敗国家(国が貧しく、政府が国を治める意思を持っていない国)となるかです。また、現代の多くの発展途上国が貧しいままである理由の一つに、かつての宗主国が、自国の都合の良いように植民地開発を行い、独立闘争が激しくなって手がつけられなくなったときにそのまま植民地を手放してしまったことがあげられます。中国国内の少数民族もその例に漏れない可能性があります。政治的に中国から独立できても、経済的には中国に依存しなければならなくなるかもしれません。そうであろうとなかろうと、独立した後に国民の生活がさらに悪化します。そのうちに、国民の間で中国の統治時代の方がよかったという声が広がるかもしれません。そうなるならば、何のために独立するのでしょうか。チベットやウイグル民族の独立は民族自決の方針にかなっているのですが、独立後の構想も持たなければならないのでしょう。そして右翼民族派は、失敗国家への道を避けられるような支援ができるのでしょうか。あるいは失敗国家になっても支援を続けるのでしょうか。

「暴戻国家、共産支那を粉砕せよーーー!!!(ふんさいせよーーー!!!)」「泥棒国家、コソ泥国家、犯罪国家、中共を糾弾せよーーー!!!(きゅーだんせよーーー!!!)」中国共産党の解体は中国国民に委ねるべきです。中華人民共和国政府と国交を断絶すれば、諸問題の事態はさらに複雑のものになるでしょう。話し合いをする場が少なくなりますから。そしてより諸問題の解決をしにくくなるでしょう。そして本当に戦争になってしまいます。そして、中国に進出している日本企業がとても困ったことになります。今や日本の中小企業も中国に進出しています。会社を今すぐ撤退せよと言われてどの企業が対応できますか。できないでしょう。また、中国のことを「泥棒国家、コソ泥国家、犯罪国家」と罵倒したところで、中国側の心証を悪くするだけで、山積する問題の解決は進みません。

「「中共は歪曲した歴史観を改めよーーー!!!(あらためよーーー!!!)」中国側の歴史認識は偏っているかもしれません。それは改めなければならないかもしれません。しかし、日本の歴史観は偏っていないのでしょうか。右翼民族派の言う「歴史観」も歪曲されて偏っていると考えて差支えないでしょう。それに、中国が日本の歴史教科書の記述に干渉してはならないとするならば、右翼民族派の言う中国の「反日教育」に日本は口出ししてはならないことになりませんか。そうでないとすればそれは理不尽であり、不公平です。言うまでもありませんが、完全に公平な歴史は存在しません。しかし、それは自国(あるいは自分たち)に都合の良い歴史ばかりを教えてよいことではありません。

「中共の侵犯漁船は即刻、轟沈せよーーー!!!(ごーちんせよーーー!!!)」日本が中国の侵犯漁船を轟沈すればそれこそ外交問題、最悪の場合戦争の危機です。日本は謝罪どころでは済まされないでしょう。現在の日本が中国と戦争をしたところで、(状況にもよりますが)勝てる可能性はほとんどありません。もっとも、日米安全保障条約がある現行体制の下で、日本が負けた時はアメリカが黙っていないでしょうが。そうなれば戦争は世界大戦の様相となり、戦争は破滅的なものとなるでしょう。何としてもそのような事態だけは避けたいものです。

総じて見ると、去年と変わらず中国への恐れと蔑視が奇妙な形で混在した内容となっていました。少数民族の弾圧や尖閣諸島や南沙諸島の問題における強硬な対応は非難に値しますが、民族感情に任せて互いに罵倒を繰り返しても日中間の問題の解決は遠のくだけです。日本と中国が戦争するわけにはいかないため、やはり日中双方が毅然としてかつ冷静な態度で粘り強く対話をしていくしかないのでしょう。

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