この日の演説・シュプレヒコール
「・・・本日は12月8日、開戦記念日であります。72年前、我らの祖先、あるいは我らの一族が、米英の圧力にやむを得ず開戦を強いられた、しかし燦然と、名誉ある戦いを継続した、その大東亜戦争が開戦されてから72年になります。沿道のみなさん、私たちはこの聖なる戦い、すなわち日本人の自存自衛、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの植民地を解放独立、そのためのすばらしい聖なる戦い、聖戦たる大東亜戦争の開戦された12月8日を祝って、示威行進を行なっております。皆さん、今日本人は世界で馬鹿にされております。韓国のようなちっぽけな国から韓国語を強制されております。皆さんの周りを見てください。いたるところに韓国語が氾濫している、いたるところに中共の有象無象が氾濫している、さらにそれ以上ひどいのは横文字・アルファベットであります。独立国民なら絶対に受け入れない横文字・アルファベットがいたるところに氾濫している、日本の文化はどこに行ったんですか。日本の文化は和食だけですか。我々日本人は日本の伝統文化、そして国体を護持しなければならない。皆さん目覚めましょう。韓国にも馬鹿にされるような日本でどうするんですか。・・・皆さん、私たち正しい日本人とともに、目覚めようではありませんか。これまで68年間、GHQ・連合国に支配された、その奴隷根性を捨てて、正しい日本人としての自覚を持とうではありませんか。・・・」
「・・・沿道の皆さん、我々日本人は、世界に冠たる精神文化を持っております。そしてその精神文化をもって欧米帝国主義と戦ってまいりました。今我々は皆さんに対して、我々日本民族の栄光を再び取り戻すべく、日本民族が独立を回復するために、皆さんに訴えかけて示威行進を展開しております。・・・」
「・・・ここは日本であります。日本は日本人のもの、反日的な外国人は直ちにたたき出しましょう。・・・」
「・・・今の日本はどうでありましょうか。韓国ごとき弱国から馬鹿にされております。このような状態を誰がもたらしたのか。当然連合国・GHQ・占領軍であります。68年間も我々はGHQの支配体制に支配されてまいりました。しかし今や国民の多くが、独立しなければならない、日本の日本による日本のための政治が行われなければならない、そう感じております。・・・」
「我々日本国民は、聖戦大東亜戦争の意義を、継承するぞーーー！！！（けーしょーするぞーーー！！！）」
「米国アメリカ合衆国による東京大虐殺、広島大虐殺、長崎大虐殺を忘れるなーーー！！！（わーすれるなーーー！！！）」
「米国アメリカ合衆国による東京大虐殺、大阪大虐殺、広島大虐殺、長崎大虐殺を謝れーーー！！！（あーやまれーーー！！！）」
「不平等条約である日米安保条約を直ちに破棄せよーーー！！！（はきせよーーー！！！）」
「日本人の日本人による日本人のための自主憲法を制定するぞーーー！！！（せーてーするぞーーー！！！）」
「米国の傭兵である自衛隊を解体し、日本国軍を創設せよーーー！！！（そーせつせよーーー！！！）」
「TPPを粉砕せよーーー！！！（ふんさいせよーーー！！！）」
「韓国は竹島から出てけーーー！！！（でてけーーー！！！）」
「中共は尖閣から出てけーーー！！！（でてけーーー！！！）」
「韓国のしつこいバカ女、朴槿恵の反日政策を打倒せよーーー！！！（だとーせよーーー！！！）」
「習近平率いる反日中共政府の反日政策を粉砕せよーーー！！！（ふんさいーせよーーー！！！）」
「我々真の日本人は、反日韓国、反日中共、反日米国と戦うぞーーー！！！（たたかうぞーーー！！！）」
「我々真の日本人は、我が国の国体と、我が日本民族の栄光と独立を守るぞーーー！！！（まもるぞーーー！！！）」
「我々真の日本人は、この日本の伝統文化と、美しい国土を守るぞーーー！！！（まもるぞーーー！！！）」
「この美しい我が国を否定するものを許すなーーー！！！（ゆるすなーーー！！！）」
「反日分子を処刑せよーーー！！！（しょけーせよーーー！！！）」
「我々日本国民はすべての反日勢力と戦うぞーーー！！！（たたかうぞーーー！！！）」
いかがでしたか。そして、どう思いましたか。
「・・・本日は12月8日、開戦記念日であります。72年前、我らの祖先、あるいは我らの一族が、米英の圧力にやむを得ず開戦を強いられた、しかし燦然と、名誉ある戦いを継続した、その大東亜戦争が開戦されてから72年になります。」日本が「大東亜戦争」を始めたのは米英の圧力があったとは思いますが、それは他ならぬ日本の軍事行動（満州事変、日中戦争、フランス領インドシナ進駐）の結果ではありませんか。米英含む諸外国の圧力は軍事行動の結果、当然予想される問題です。にもかかわらず、さも日本が米英に陥れられた被害者であるかの主張するのは、単に当時の政府首脳陣の無能ぶりを暴露しているにすぎません。そこに誇りなど存在するでしょうか。
「沿道のみなさん、私たちはこの聖なる戦い、すなわち日本人の自存自衛、アジア・アフリカ・ラテンアメリカの植民地を解放独立、そのためのすばらしい聖なる戦い、聖戦たる大東亜戦争の開戦された12月8日を祝って、示威行進を行なっております。」「我々日本国民は、聖戦大東亜戦争の意義を、継承するぞーーー！！！（けーしょーするぞーーー！！！）」まずアフリカには日本兵は一人も行っていません。当時の日本にそのような余裕がなかったと同時に、当時アフリカで日本の味方として戦っていたのはドイツやイタリアであり、当時の日本政府はアフリカについてはドイツやイタリアに任せきりで何も考えていなかったと考えられます。アフリカに限って言えば、独立に希望を与えたのはむしろ右翼民族派が最も忌み嫌うマルクスや毛沢東の思想でしょう。もし日本が植民地解放のために戦争をしていたのならば、ドイツやイタリアもまた植民地解放のために戦争をしていたと考えられるでしょう。ところが、この運動の中で当時のドイツやイタリアの「活躍」については一切触れられていません。これはどういうことでしょうか。これは私の個人的な思考なのですが、肯定すればドイツが行ったユダヤ人・スラブ人・身体障害者などへの虐殺やファシズムを肯定することとなり（右翼民族派はファシズムを否定しています）、否定すればドイツやイタリアの「民族解放のための活躍」を否定することになることになり、どちらにせよ民族解放という右翼民族派の言説が崩れるから、というのが理由だと考えられます。これは私の邪推でしょうか。ラテンアメリカについては殆どの国々が太平洋戦争どころか20世紀になる前に独立しているため、日本が果たした役割はほとんどなかったと考えられます。そもそも聖戦の意味がよくわかりませんが、太平洋戦争が聖なる戦争だとはどうしても思えません。自存自衛のためは日本だけが生き残ろうとした聖なる戦いという意味で正しいかもしれません。民族解放のための戦争ならば、占領した植民地にも対等な地位を認め、その土地の言語や文化を尊重するはずです。しかし、実際には日本も占領した地域の住民に日の丸、日本の言語、文化を押し付け、住民から搾取しました。それなのにどうして聖なる戦いなのでしょうか。占領地で略奪と虐殺を限りつくしたヨーロッパの十字軍とあまり変わりません。アジア・アフリカが独立したのは日本（もっといえば日本政府）の働きではなく、その後の宗主国による植民地経営の弱体化のためでしょう。
「皆さん、今日本人は世界で馬鹿にされております。韓国のようなちっぽけな国から韓国語を強制されております。皆さんの周りを見てください。いたるところに韓国語が氾濫している、いたるところに中共の有象無象が氾濫している、さらにそれ以上ひどいのは横文字・アルファベットであります。独立国民なら絶対に受け入れない横文字・アルファベットがいたるところに氾濫している、日本の文化はどこに行ったんですか。」「我々真の日本人は、この日本の伝統文化と、美しい国土を守るぞーーー！！！（まもるぞーーー！！！）」韓国を「ちっぽけな国」と侮っていること自体が他民族を自らと対等なものとして認めていないことの証左であり、「大東亜共栄圏」の理想と全く相容れないことです。それ以前に、日本国民はアルファベットやハングル、中国語を誰かに強制されているわけではありません。日本人が自ら取り入れた（もしくは容認した）ことです。あらゆる文化、宗教を取り入れ、それを自らに合わせて変形させていくのもまた多神教的な価値観を持つ日本の文化ではありませんか。文化は時代とともに変化していくものです。どこに行くものでもありません。
「日本の文化は和食だけですか。我々日本人は日本の伝統文化、そして国体を護持しなければならない。皆さん目覚めましょう。韓国にも馬鹿にされるような日本でどうするんですか。」日本の文化が和食だけでないとすればほかにどのようなものが「日本の文化」なのでしょうか。さらに、「日本の伝統文化」と「国体」とは何ですか。それを右翼民族派は自らの言葉で説明し、他者に伝えることができますか。確かに日本の文化、伝統、国土、国体、そして国号を守りたいものです。しかし、歴史を強引にゆがめて、世界中の非難を浴びて、日本の陰の部分を隠蔽し、輝かしい部分のみを全面に押し出してまで守ろうとは思いません。輝かしい部分も影の部分もすべて受け入れた上で守っていきたいのです。右翼民族派は源治物語など平安時代の愛欲にまみれた文学を日本の文化として受け入れるでしょうか。中世の日本で斬首や同性愛が公然と行われたことを日本の文化として受け入れるでしょうか。あえて極端な例を挙げましたが、日本の文化、伝統、国土、国体、そして国号は必ずしも輝かしいものではありません。輝かしくない部分を含めて日本の文化なのです。
「・・・皆さん、私たち正しい日本人とともに、目覚めようではありませんか。これまで68年間、GHQ・連合国に支配された、その奴隷根性を捨てて、正しい日本人としての自覚を持とうではありませんか。」「このような状態を誰がもたらしたのか。当然連合国・GHQ・占領軍であります。68年間も我々はGHQの支配体制に支配されてまいりました。」右翼民族派のイメージしている「正しい日本人」とはどのような日本人でしょうか。彼らもGHQ・連合国に支配された日本社会で生まれ育ったはずです。そこで得た「正しい日本人」像は本当に正しいのでしょうか。答えは「わからない」でしょう。「正しい日本人」像は人それぞれであり、そこに正解はありません。右翼民族派のイメージしている「日本人」像はそもそもどのようなものなのか明示されていないため、正しいかどうかの判断すらできません。
「しかし今や国民の多くが、独立しなければならない、日本の日本による日本のための政治が行われなければならない、そう感じております。」そのように考えている日本人はどこにいるのですか。右翼民族派以外にいないのではありませんか。「日本の日本による日本のための政治」とはどのような政治ですか。民主党の岡崎トミ子元国家公安委員長のように従軍慰安婦の方々に補償を行い、歴史を直視することが「国益」であると考える方もいます。このように「日本の日本による日本のための政治」はきわめて多様なものであるといえます。
「・・・沿道の皆さん、我々日本人は、世界に冠たる精神文化を持っております。そしてその精神文化をもって欧米帝国主義と戦ってまいりました。今我々は皆さんに対して、我々日本民族の栄光を再び取り戻すべく、日本民族が独立を回復するために、皆さんに訴えかけて示威行進を展開しております。・・・」「我々真の日本人は、我が国の国体と、我が日本民族の栄光と独立を守るぞーーー！！！（まもるぞーーー！！！）」「世界に冠たる精神文化」とはどのようなものでしょうか。通行人の方にもわかりやすく説明していただきたいものです。その「精神文化」をもって挑んだ欧米諸国との戦争は、その精神（というより空虚なスローガン）のみが独り歩きをし、結果日本の敗北に終わりました。そもそも日本軍が占領地で行った略奪・暴行・虐殺のどこにその「世界に冠たる精神文化」があったというのでしょうか。アジア各地の天然資源を収奪することを策謀していた戦争指導者たちのどこにその「世界に冠たる精神文化」があったというのでしょうか。
「・・・ここは日本であります。日本は日本人のもの、反日的な外国人は直ちにたたき出しましょう。・・・」ネオナチのような排外主義が丸出しの主張です。そもそも反日とはどのような基準なのでしょうか。ある右翼民族派が言うには、日本が日本民族としてあるべき道を妨害するものが反日のようです。しかし、日本が日本民族としてあるべき道とは何でしょうか。これも誰にも分からないでしょう。それはともかく、現在日本にどれだけの外国人労働者がいて、その外国人労働者のためにどれほど企業が利潤を上げ、日本の生産力に貢献してきたか知っているのでしょうか。トヨタなどの大企業も外国人労働者の恩恵を受けています。外国人労働者を排除すれば日本人が困ることになります。それに加えて、外国人を排除することは民族解放という大東亜戦争の理念に反するのではないでしょうか。
「米国アメリカ合衆国による東京大虐殺、広島大虐殺、長崎大虐殺を忘れるなーーー！！！（わーすれるなーーー！！！）」「米国アメリカ合衆国による東京大虐殺、大阪大虐殺、広島大虐殺、長崎大虐殺を謝れーーー！！！（あーやまれーーー！！！）」確かにこれらのことについてアメリカは謝罪しなければなりません。アメリカ政府が日本の遺族に補償するなら幸いです。しかし、それまで戦争の被害者や遺族に日本政府が一切補償をしないというのはおかしなことです。苦しむ遺族はすぐそこにいるにもかかわらず、それを救済しないのは人道的に問題があります。そして、アメリカ、イギリス、ソ連（ロシア）、中国に謝罪してほしいのならば、日本の戦争犯罪について日本がしっかりと補償することです。お互いに謝罪することは重要ですが、お互いに謝罪と補償を待っていてはいつまでも問題が残ったままです。
「不平等条約である日米安保条約を直ちに破棄せよーーー！！！（はきせよーーー！！！）」「日本人の日本人による日本人のための自主憲法を制定するぞーーー！！！（せーてーするぞーーー！！！）」「米国の傭兵である自衛隊を解体し、日本国軍を創設せよーーー！！！（そーせつせよーーー！！！）」「不平等条約である」という表現がどのような意図を含んでいるかはわかりませんが、日米安保条約を破棄することは日本の主権を回復する上では重要です。その上で、日本国憲法の守ることも、ある意味では日本の自主独立をかけた選択ではないかと思います。軍事力によって国を守るというのは簡単です。その威勢の良い掛け声だけが現在の日本社会に蔓延しているようにも思えます。しかし、何のために「国軍」を創設するのでしょうか。何を想定して、何を守るための国防なのでしょうか。その問いが現状において抜け落ちているように思えます。国土を守る気概を示すというだけならば、軍隊どころか自衛隊すら本質的には不要なのです。
「韓国のしつこいバカ女、朴槿恵の反日政策を打倒せよーーー！！！（だとーせよーーー！！！）」「習近平率いる反日中共政府の反日政策を粉砕せよーーー！！！（ふんさいーせよーーー！！！）」「我々真の日本人は、反日韓国、反日中共、反日米国と戦うぞーーー！！！（たたかうぞーーー！！！）」バカ女などという表現を使っている時点で取り上げる価値もない罵倒として切り捨ててもよいのですが・・・。果たしてこれらの国々は日本を滅ぼしたいのでしょうか。右翼民族派がそう思い込んでいるだけではないのでしょうか。仮に戦うとして、その戦いの勝利とは何なのでしょうか。勝利条件のわからない戦いに勝利はありません。大日本帝国も太平洋戦争の勝利条件が分からなかったようです。そのうちに、戦う敵が次第に増え、味方が減っていき、ついに日本と全世界の対立という勝ち目のない戦いになっていくのです。
「この美しい我が国を否定するものを許すなーーー！！！（ゆるすなーーー！！！）」「反日分子を処刑せよーーー！！！（しょけーせよーーー！！！）」「我々日本国民はすべての反日勢力と戦うぞーーー！！！（たたかうぞーーー！！！）」「反日」とは何ですか。右翼民族派の思想に反対するものは全て「反日」なのですか。それは結局右翼民族派の妄想でしょう。自らの内にしか存在しない「日本国家」に反対する人間を一方的に排除する国家がどのような国家なのか、それはソ連や北朝鮮や中国の例を出すまでもなく理解できるでしょう。右翼民族派がいつも名指しで批判している日教組も、全教も、日本共産党も、日本という国が良い方向に向かって欲しいと思って活動しているはずです。何も日本を滅ぼしたいと思って活動しているのではないと思われます。そもそも、何度も言うように、右翼民族派や「反日勢力」のどちらが反日でどちらが愛国かは誰にもわかりません。右翼民族派が未来には「反日勢力」とレッテルを貼られているかもしれません。
総じて見るに、「大東亜戦争」は民族の自存自衛と植民地解放のための戦争と言っておきながら、排外主義を煽るような内容が多かったように感じられました。そのような排外主義、差別主義的な態度を露骨に示して国際社会で受け入れられるのか、私は大いに疑問を感じました。大東亜共栄圏の理想を肯定しておきながら、他方で多民族共生を訴えるプラカードを掲げる方に対して人としての敬意の欠片も見られない態度を示す矛盾を見出しました。特に保守系市民団体関係の参加者にその姿勢が見られました。植民地解放を謳いながら二言目には（明らかに罵倒語として）朝鮮人という人のどこに大東亜共栄圏の理想があるのでしょうか。自らの主張を信じて欲しいというのであれば、それを行動で示して欲しいものです。日本の歴史、伝統、文化を誇りに思うのは良いのですが、自国の負の部分を覆い隠してまで誇りに思いたくはありません。