ここでは映画の内容と私の意見を述べていきます。

靖国神社で映し出される様々な人々。まず靖国刀を現役で作り続ける最後の刀匠の居合からはじまります。続いてインタビューが始まり製作が始まります。この製作の様子はこの映画の場面の合間(この文章の段落ごと)に挿入されます。頭が思想で熱くなる時に大体挿入されます。静寂な工房から聞こえてくる炎のはじける音や鉄をたたく音。そこはまさに職人の空間でした。

場所は変わって軍服姿で靖国神社に参拝する右翼団体隊員たち。「侵略戦争だの防衛戦争だのと議論もいいが祖国日本のために戦った人を侵略者という馬鹿な国は日本だけだ!!」そう宣言します。日本の真の姿を取り戻すこと、その姿とは英霊に感謝することであるという人も映されていました。小泉首相を支持しますと書かれている看板と星条旗を掲げているアメリカ人。アメリカで不動産業を営むという彼は、「靖国問題についてアメリカは黙っているが、それは世界のリーダーとしておかしい。だから私はここへ来たんだ。」と言います。英霊にこたえる会の人が気さくに声をかけますが、境内から「ここは日の丸を掲げるところだ!」「広島を忘れないぞ!!」「第二次世界大戦を忘れないぞ!!!」という怒号が聞こえてきます。警察に危ないから境内から出るように言われ理不尽だと言わんばかりの顔をしてすごすごと立ち去って行きます。さらに場面は境内で南京大虐殺を否定する署名活動の様子を映し出します。スタッフの説明を聞いて感心し署名をする主婦。

次に小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝の映像が映し出されます。記者会見の様子も映し出されます。「精神の自由、心の問題、これは誰も侵すことができない憲法に保障されたものであります。」小泉はそう言っています。

その一方で、靖国神社に勝手に合祀された人々の魂を返せという人が次に映し出されます。高砂義勇軍の魂の返還を求める、高砂族を母に持つ台湾の国会議員。外国人の靖国神社合祀撤廃を求めるデモ行進、それに抗議する右翼とそれを必死で止める警官隊。さらに戦死した父親を勝手に合祀され合祀取り下げを求めている日蓮宗の僧侶。その僧侶はこう言います。命の尊厳を守るべき宗教者が戦争に行った。宗教者の務めを放棄してしまった。国は勲章を与えて名誉の戦死と言う。まさに遺族の思いは居場所を失うわけですね。そういう倒錯した構図があると思います。つまり、国の戦争責任は問われない形で、遺族たちにも文句を言わせないという機能を果たしていると思います、と。815日に合わせて靖国神社で開催された遺族会主催と思われる追悼集会。石原慎太郎からエールが送られる場面が流れました。司会の映像次に流れてきたのは、追悼集会に割って入り追悼集会や小泉首相の靖国神社参拝に反対の声を上げる若者の映像でした。次の瞬間、その若者はその場にいた遺族の人につまみ出され右翼と思しき別の若者にヘッドロックをかけられます。「中国人か、中国へ帰れ!!」と周りの人は若者に詰め寄ります。このシーンで映画館の観客がクスクス笑っていたのを覚えています。観客の目にはよほどおかしなシーンに映ったようです。そして詰め寄られて靖国神社の入り口にまで戻された時に再びもみ合いになり、若者は口と頭にけがをします。警察が割って入ります。若者は「靖国神社参拝反対!!侵略戦争反対!!」と尚も叫び続けます。救急車の手配も「いいです!!アジアの人々の痛みに比べれば何ともありません!!」と断ります。パトカーに乗せられるとき「止めてください!!僕は犯罪者じゃありません!!」と言って抵抗しますが、パトカーに乗せられました。

刀が完成し、銘を入れる刀匠。インタビューでは靖国刀が戦地で使われていた時の話を聞いているかという質問などで時折沈黙するシーンがありました。その沈黙は何を意味するのでしょうか。そして話は東証の後ろに置かれていたステレオに移ります。あなたはどんな音楽を聴くのかと聞くと、刀匠はステレオをかけ昭和天皇のスピ−チを流し始めました。東京オリンピックの時、明治百年記念式典の時。まだ昭和天皇が靖国神社に参拝していた時の肉声です。

その後、靖国刀の「成果」と思われる写真を流します。生まれて初めて人間の生首の写真を見ました。そののち徳川光圀(水戸黄門)作の「日本島を詠ず」を刀匠が詠み、最後に靖国神社の空撮と東京のまばゆいばかりの夜景を映してエンディングとなります。映画のところどころに靖国神社の歴史や日本刀鍛錬会の歴史についての映像が流れていました。

華やかな賞状と薄暗い工房。勲章と悲しむ遺族。日本の右翼と靖国反対派。一つの視点に偏らず対照的なものを描き出すことによってとても印象的に仕上がっています。決して偏った映画ではありません。一度見てはいかがでしょうか。

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