参議院選挙の結果を捉えて

 721日、参議院選挙の投票が行われ、自民党が65議席、公明党が11議席を獲得し、与党が参議院の過半数を占めました。一方民主党は17議席を得たにとどまり、結党以来最低の議席数となりました。社民党に至ってはわずか1議席を得たに過ぎませんでした。共産党は改選前から議席を増やし、みんなの党や日本維新の会と並ぶ8議席を得ました。これにより憲法改正に賛成する政党が占める参議院の議席は全議席3分の2を超えました。これを受けて、民主党では細野豪幹事長が辞任し、後任の選定が難航しているほか、鳩山由紀夫元総理大臣や菅直人元総理大臣への処分をめぐって混乱が続いています。社民党では福島瑞穂党首が辞任し、後任をめぐる混乱が続いています。みんなの党や日本維新の会でも今回の選挙をきっかけに党内の亀裂が表面化しています。

今回の選挙においては、安倍晋三内閣が発足して以来の業績が評価されたというよりも、現在の与党に対抗出来るだけの勢力の存在が希薄であったことが与党圧勝の原因であるように思われます。選挙の基盤も自民党に比べて脆弱で昨年の衆議院総選挙後も混乱が続いている民主党、自民党との政策の差が見えにくいみんなの党および日本維新の会、共産党との政策の差を出せなかった社民党、民主党や社民党に流れる票を奪うこととなった共産党など、野党は与党に対して大きな脅威となることができませんでした。そのため、相対的に与党の議席が増えたと考えられます。

今回の参議院選挙の結果は全体的に未来への期待ではなく、現在への絶望の結果であると考えられます。投票率も戦後3番目の低さとなるなど、インターネットによる選挙運動が解禁されたにもかかわらず国民の選挙への関心が低いことも明らかとなりました。今回の参議院選挙の結果は与党への信頼の証であると考えるべきではないでしょう。ましてや「選挙結果を歴史認識の見直しや中国に向けた強硬な発言、自衛隊の活動を拡大させる憲法改正といった考えに対する支持(ウォール・ストリート・ジャーナル)」とは考えられません。むしろ国民の政治全体への不信は選挙運動方法の多様化ごときに影響されないほど根深いと言えるかもしれません。

与党が国会の過半数勢力となった今、確かに国会内での「ねじれ」は解消されたでしょう。しかし、国会内に「ねじれ」がないことは果たして良いことでしょうか。確かに国会における審議はスムーズになるのでしょうが、多数意見が反対意見を黙殺することになりかねません。二院制は一時の多数派によって悪法が制定されるのを阻止するために存在するのです。本当に統治体制に「ねじれ」のない方が良いならば最もよい統治体制は中国や北朝鮮が採用しているような一党独裁体制ということになります。日本国民は本当に一党独裁国家の誕生を望んでいるのでしょうか。そうではないとしても、ドイツにおけるナチス党の一党独裁体制は民主的なワイマール憲法の下で形成されたのです。そのことを日本国民は今一度思い起こすべきではないでしょうか。

いずれにせよ、憲法や国防の問題や教育再生などの問題よりも目下の経済、労働問題などの国民の生活に直接関わる問題を優先して解決すべきでしょう。もしイデオロギーむき出しであらゆる政治問題を解決しようとすれば、それはやがて決定的な破滅を日本にもたらすでしょう。国民は国家権力の暴走を監視し、それを食い止めることができるのです。国民は国家権力に支配されるだけの無垢な子供ではありません。国家の主権者なのです。

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