衆議院総選挙の結果を捉えて

 1031日、岸田文雄内閣が発足した直後の状況で第49回衆議院総選挙の投開票が行われました。自民党は261議席と過半数を確保しましたが、前回より15議席減りました。しかし立憲民主党も13議席減って96議席となり、共産党も2議席減って8議席となりました。国民民主党は3議席増えて11議席となりましたが、国民民主党11議席から30議席増やした日本維新の会が今回の選挙における最大の勝者となりそうです。

 選挙区単位でみると自民党では甘利明幹事長、石原伸晃議員などが小選挙区で落選しました。その一方で立憲民主党では辻元清美副代表や小沢一郎議員が小選挙区で落選しました。この結果を受けて甘利幹事長は幹事長を辞任し、代わりに茂木敏充前外務大臣が自民党幹事長に就任することになりました。立憲民主党は枝野幸男代表が辞任し、代表選挙が行われます。国民民主党は立憲民主党、共産党との連携を解消する意向を示しました。日本維新の会と国民民主党は憲法改正を与党に迫ることで連携していくと表明しています。

今回の選挙の結果をどう見るべきか、政策や野党共闘の是非など、多くの報道や議論がなされています。私は立憲民主党と共産党が議席を減らした大きな原因は共闘の一体感の欠如と旧民主党候補の代り映えのなさ、野党としての実績の乏しさと考えています。

国民民主党、立憲民主党、共産党、れいわ新選組(以下共闘野党)の間で候補者の調整を行うこと自体は選挙戦略として悪くありませんでした。しかし、党派間で候補者の調整はできても、それぞれの支持者まで納得することはなく、共闘の広がりを演出することには失敗していたと同時に感じます。今回、立憲民主党と共産党の連携に立憲民主党の支持母体である日本労働組合総連合(連合)の芳野友子会長が露骨に不快感を示しましたが、それだけでも共闘野党が無党派層にとって入り込みにくい印象を無党派層に与え、もっと言えば野党共闘が選挙のための「野合」であるという印象を有権者の中で強めたのではないでしょうか。内部に複数の派閥を抱えている自民党が選挙で多くの議席を獲得している理由を野党はもう少し真剣に考えてみるべきでしょう。

また立憲民主党も国民民主党も、民主党政権時代に政権や党の中枢にいた面々が変わらず残り続け、現在も何食わぬ顔で党に在籍しています。そこに旧民主党からの変化を見いだせるでしょうか。なぜかつての民主党政権が国民からの信頼を失い、崩壊したのかを関わった者全員で総括し、その反省をもとに体制を一新して行動しなければいつまでも民主党政権のイメージに苦しめられることでしょう。それほどまでに国民の間で民主党政権の呪縛が根強いのです。前述のベテラン議員の落選はまさに野党の顔ぶれの交代を促しているようです。かつて菅直人内閣で官房長官を務めた枝野代表の辞任は致し方ありません。

今回の選挙で大きく躍進した日本維新の会の吉村知事は大阪府知事として行政の最前線に立ち、メディアにも積極的に出続けました。本当に新型コロナウイルスの流行を阻止できていたかどうかはともかく、取り組む姿勢をきちんと見せていたことは有権者にとって絶大な高評価材料になったと思います。一方の共闘野党は地方でも国政でも実績に乏しく、大阪府での日本維新の会圧勝という状況を作り出したのではないかと思います。今回与党への不満は実際に吉村洋文大阪府知事率いる日本維新の会に集約されてしまいました。共闘野党は議席が伸びなかったことの反省をしっかり行い、対策を打たないと来年の参議院選挙でも議席を減らしてしまいます。理念や主張を整え、伝え続けることは重要ですが、それを裏打ちする実績を積むこと、そしてそれを広く伝える戦略を考えることを怠ってはなりません。少なくとも今共闘野党に投票しなかった有権者やマスコミに対する恨み言を並べたところで有権者の心は離れていくばかりです。

 共闘野党が議席を減らしたことを重く見るべきなのは当然ですが、自民党も戦後3番目に低い投票率の結果として議席を減らしたことを重く見るべきです。今回の選挙結果は安倍内閣と菅内閣の功罪、それを踏まえての岸田内閣への期待を反映していると考えるべきで、岸田総理大臣がいうような「国民の付託」を受けたというほど単純なものでは断じてありません。1110日、第2次岸田内閣が発足し、次々と経済対策を打ち出していますが、国民を苦しめるようなことがあればすぐにでも政権を失うことを岸田内閣と与党は意識しなければなりません。そうでなければ政治の場に何の緊張感も生まれないのです。

与野党の動きに関係なく、これから国民は自分たちが選んだ議員だけでなく、内閣がきちんと期待する仕事をするか監視する必要があります。まだ岸田内閣も発足したばかりです。10月から11月にかけて新型コロナウイルスの流行が収まっていったので、今回の選挙でコロナウイルス感染対策は大きな争点になりませんでしたが、今後また大きな流行が起こらないとは限りません。与党が感染対策をしつつコロナ禍で疲弊した日本社会を立て直すことができるか、共闘野党が地道に実績を積んで立て直せるか、しっかりと見守りましょう。

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