特定秘密保護法について

 今年126日、特定秘密保護法案が可決され、同月13日に交付されました。この法案は国家機密の指定と取り扱い、漏洩した時の罰則を規定するもので、情報統制につながるものとして日本国内の様々な団体のみならず、国際社会からも批判されています。

 その条文には、「高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される中で、我が国の安全保障に関する情報のうち特に秘匿することが必要であるものについて、これを適確に保護する体制を確立した上で収集し、整理し、及び活用することが重要であることに鑑み、当該情報の保護に関し、特定秘密の指定及び取扱者の制限その他の必要な事項を定めることにより、その漏えいの防止を図り、もって我が国及び国民の安全の確保に資すること」となっています。その意味で機密事項の保護について法律で定めることは否定しません。2010年に尖閣諸島沖で中国漁船と海上保安庁巡視船が衝突した事件の映像を独断でインターネット上に流出させた一色正春元海上保安官のような人間が現れるのは情報管理上よくありません。

しかし、特定秘密を指定するのは、「行政機関の長」であり、その裁量次第でどのような情報でも「特定秘密」となってしまいます。これだけでも「権力の裁量があまりにも大きすぎる」という暴力団排除条例にも通じる危険があります。それだけならばまだ良いのですが、特定秘密を扱うものは「適性評価」として本人はおろか家族まで思想信条、生年月日等の個人情報、前科、果ては精神疾患の有無や飲酒の節度、経済状況まで調査されます。これはプライバシーの侵害と呼ばずに何と呼ぶのでしょうか。そして、その個人情報が万が一流出して対象者に実害が生じたとき、その責任を誰が取れるというのでしょうか。さらに、「特定秘密」とされた事項が一定期間の後必ず公開されれば良いのですが、今回公布された法律では5年の上限を行政機関の長によって延長することができます。内閣の承認があれば30年以上、さらには永遠に「特定秘密」にしておくことも可能なのです。このことがジャーナリストの取材や研究者の文献調査どころか政府の情報公開に大きな支障をきたすことは間違いありません。

さらに罰則は必ずしも公務員だけに課せられるものではありません。「人を欺き、人に暴行を加え、若しくは人を脅迫する行為により、又は財物の窃取若しくは損壊、施設への侵入、有線電気通信の傍受、不正アクセス行為(不正アクセス行為の禁止等に関する法律(平成十一年法律第百二十八号)第二条第四項に規定する不正アクセス行為をいう。)その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得した者」とその共謀者も処罰の対象となります。犯罪行為によって「特定秘密」を盗み取った場合はともかく、「特定秘密」を探ろうとする行為は全て「その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為」に含められる可能性があります。そのことを賛成している人は考えないのでしょうか。国家権力は常に国民のためにあるとは限りません。

また、今回の法案は、安倍晋三内閣総理大臣がほとんど国会に姿を現さず、委員会や本会議での議論もほとんど尽くされないままの採決となりました。また、衆議院において法案が可決された後、石破茂自民党幹事長が国会議事等の前で行われている法案反対のデモ行進・街宣活動を「テロ行為とその本質においてあまり変わらない」と自身のブログ上で攻撃し、批判を受けました。道路使用許可を取った正当なデモ行進が「テロ行為」とは、石破茂幹事長の考える「民主主義」の手段とは一体どのようなものなのでしょうか。もし道路使用許可を取った正当なデモ行進が「テロ行為」なのであれば、右翼民族派が抗議対象のある地域に出向いて抗議街宣を行うのもまた「テロ行為」でしょうか(笑)。以上の二つのことから考えると現在の政治家が国民のことをどう考えているかは明らかです。

何のために国家が存在し、何のために民主主義が存在し、何のために国民主権が存在しているのか、今まさに問われようとしています。

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