朝鮮半島問題

 45日午前1132分、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の舞水端里(ムスダンリ)からロケット(ミサイル)が発射され、1段目は日本海に、2段目以降は日本列島を飛び越えて太平洋に落下しました。今回の発射は予め北朝鮮政府が44日から48日の午前11時から午後4時までに発射すると予告していました。日本政府はこのミサイル発射を国連安全保障理事会決議に違反し容認することができないとして、国連安全保障理事会に問題を付託しました。同時に独自の経済制裁を検討しています。

 前日には自衛隊のミサイルレーダーがミサイルでないものをミサイルと誤探知して、全国にその情報が伝わってしまうという事態が起こりました。このことは世界中に報道され、ミサイルが通過するとされた地方自治体から不満の声が相次ぎました。

 日本国内では不安と安堵、そして批判の声が聞かれました。また、ミサイル発射に合わせて、右翼民族派団体も一斉に全国の在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)関連施設に対して抗議活動を行い(この時の右翼民族派の抗議活動の一例としては、こちらをご覧ください)、警備していた警察と小競り合いを起こすなどの事態も起きました。

 今回のミサイル発射は国際社会の制止を無視して行われたものであり、決して容認されるものではありません。日本をはじめ国際社会は毅然とした態度で臨むべきです。私は北朝鮮政府に対しここに強い遺憾と抗議の意を表します。しかし、これにより世界各地で朝鮮の人々が差別されたり排斥されたりする事態があってはなりません。ほとんどの在日朝鮮人はミサイルや核兵器の開発によって迷惑を被っているはずです。また、経済制裁をするかどうかは判断が難しいところでしょう。今回の決議違反への処罰として経済制裁を課すことも考えられます。しかし、20067月に北朝鮮がミサイルを発射した時の経済制裁のように、効果があまり期待できないかもしれませんし、そして仮に北朝鮮で拉致被害者が生存していた場合、その生命が危ぶまれることになります。経済制裁を検討する場合、そのことを考慮しておく必要があります。経済制裁を支持する拉致被害者の家族の皆様はそのことを考えているのでしょうか。

 また、このミサイル発射を機会に軍事(防衛)費を増額し、憲法を改正して自主防衛体制を確立すべきであるという意見もあります。それに対して私は賛成できません。日本は軍事(防衛)費の金額でみれば世界でも有数の軍事大国です(世界各国と比較した軍事費の順位では一桁に入るほどです)。これ以上軍事費を増やしても周辺国が警戒するだけで、何の意味もありません。また、100年に1度の不況と言われる今日、軍事力を増強しても国民の支持は得にくいでしょう。軍事費よりも国家予算を振り分けるべき事項は多数あるはずです。巨大な軍事力を抑止力として利用するならば、たとえ他国と無限の軍拡競争をして、国民生活を犠牲しても構わないという覚悟が必要です。つまり北朝鮮に対抗するために日本が自ら北朝鮮のような国家になることを覚悟しなければならないのです。そうでなくとも現在の憲法を改正しても自主防衛体制を確立することは不可能でしょう。日本に自主防衛体制を確立してもらってはアメリカが困りますし、アメリカから自衛隊の兵器を導入している以上、自主防衛は成しえません。完全なる自主防衛ならば兵器も国産でなければなりません。そうしなければ自主防衛体制はあり得ず、ただのアメリカの傭兵でしかありません。このように考えると、防衛費の増額や憲法改正での自主防衛体制確立というのは実現性が低いと考えられ、賛成できないのです。ましてや、北朝鮮に自衛隊を派遣して拉致被害者を救出するなどという強硬な主張は荒唐無稽としか言いようがありません。拉致被害者は北朝鮮にいるかどうかはおろか生存しているのかどうかも不明ですし、自衛隊派遣後の北朝鮮は現在のイラクやアフガニスタンと同じような状況になるでしょう。そうなれば日本政府は責任の取りようがありません。

 私は金正日体制下の北朝鮮を支持しませんし、北朝鮮をもはや社会主義国であるとも考えていません。ただの軍事独裁国家です。しかし、金正日体制の存亡は北朝鮮国民の手に委ねられるべきでしょう。最後に、拉致被害者の救出と朝鮮半島の平和を心よりお祈り申し上げます。

 

(以下621日追記)

 525日午前、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が200610月に続く核実験を強行し、さらに29日までに6発のミサイルを発射し、世界から非難を浴びました。612日(日本時間613日)に国連安全保障理事会は追加制裁決議を採択し、北朝鮮の行動を「最も強い表現で非難する」としました。一方北朝鮮は各国の非難に対して反発し、六カ国協議の場から離脱するとしました。そして、制裁決議に対して北朝鮮政府はアメリカや韓国、日本が敵対的行為をするならば自衛措置を取るとしています。そして日本政府は北朝鮮に対する輸出入を全面禁止する独自制裁を行うことを閣議決定しました。

 北朝鮮政府はミサイルも核兵器も自国民に平和と安全をもたらさないことを悟らなければなりません。自国民のことなど考えていないのかもしれませんが。そして、ミサイル発射の時は北朝鮮への冷静な対応を呼びかけるにとどまっていた中国やロシアも今回の制裁決議に賛成していることから、北朝鮮は本当に孤立へと向かって行くことになります。ミサイルはまだ大した脅威ではなかったにしても、核実験ばかりは見逃せなかったようです。今回のミサイル発射や核実験は金正日国防委員長の後継者問題や政府・朝鮮人民軍内の確執など様々な事象が背景にあるようですが、そのために広範囲に被害を及ぼす兵器に頼るべきではありません。しかし、現状で北朝鮮に核兵器やミサイルを放棄させることは困難でしょう。保守派や右翼民族派はよく日本が武力をもたないから他国に狙われるという主張をしますが、同様の論理で北朝鮮も核兵器やミサイルを放棄しないかもしれません。北朝鮮が核兵器を放棄しても、アメリカが核を放棄しないからです。アメリカのオバマ大統領が核兵器の廃絶に意欲を見せていると言いますが、本当に核を廃絶するかどうかは分かりません。日本にはアメリカ軍が駐留し、並みの軍隊よりも強い自衛隊もあります。アメリカの原子力空母などが核兵器を積載したまま日本のアメリカ軍基地に寄港することもあると言います。そのような中で、北朝鮮だけが核兵器を廃絶せよという要求を北朝鮮がそう簡単に承諾するでしょうか。北朝鮮が核兵器やミサイルを放棄すると同時に、アメリカや日本もそれに類する兵器を処分することも有りうるでしょう。たとえそうでなくとも、北朝鮮に核兵器やミサイルなど持たなくとも周辺に脅威はなく、それらを持つことが逆に周辺に脅威を与えるということを示さなければなりません。

 私は北朝鮮の核やミサイルを容認するつもりは全くありませんし、今回のミサイル発射や核実験を最大限に非難します。しかし、北朝鮮にのみ一方的にミサイルや核兵器の廃棄を要求するようなアメリカや日本の姿勢には疑問を覚えます。北朝鮮に核兵器やミサイルを放棄させたいのであれば、日本やアメリカも核兵器やミサイルを廃棄すべきです。当然ですが、中国やロシアの核兵器やミサイルに対しても同様です。

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