戦争補償問題

 2007年にアメリカ議会とEU議会など各国の議会で従軍慰安婦(性的奴隷)に対する謝罪勧告決議が可決されました。しかし、当時の安倍晋三総理大臣はまともに取り合おうとしませんでした。従軍慰安婦問題で日本政府はたびたび国連人権委員会などの国際機関などから謝罪勧告決議を受けています。15年戦争が終わり、サンフランシスコ平和条約が締結されてからも戦争補償問題はありましたが、どうなっているでしょうか。

 従軍慰安婦(性的奴隷)とは、戦争中に軍人たちの性欲を満たすために召集された女性たちです。いわば公立の売春宿です。これに朝鮮を始め占領地から女性たちが強制的に徴用されたと言われています。一方従軍慰安婦の存在を否定する人たちは、従軍慰安婦はただの売春婦であり、国から高給を受け取っておきながら戦後になって被害者のようにふるまうとは何事かと主張しています。

 従軍慰安婦の問題について思うのは、従軍慰安婦の存在を肯定する側も否定する側も双方のデータを見ているのかということです。肯定する人は統計データを見たことがあるのか、否定する人は従軍慰安婦であった人の証言を聞いたことがあるのか、もしそうでないならば、どちらの主張も説得力に欠けるものとなってしまいます。私は今のところ従軍慰安婦の存在を肯定する論調の本と否定する論調の本の両方を学生に読ませた上で従軍慰安婦について調べさせて、夏休みを利用してしょうけい館や女たちの戦争と平和祈念館、そして靖国神社内の遊就館を訪れた上で韓国で実際の元従軍慰安婦の話を聞くという内容のゼミを行っている大学教授の話を聞いたことがあります。この人の話はそれなりに信憑性があるように思えます。どちらの意見にも触れているからです。そして、元従軍慰安婦の女性の話が全くのでたらめであるならば、彼女たちはアメリカ議会もEU議会も騙しとおすことは可能でしょうか。疑問に思った人が調べて反対意見を唱えてもよいと思いますが。ロビイストの影響を主張する声と言うのもありますが、何のためのロビー活動なのでしょうか。知っている人がいたら教えてください。

 他にも、朝鮮半島から強制連行されてきた人々の補償問題、シンガポールにおける華僑虐殺への謝罪問題、BC級戦犯として処刑された朝鮮人の補償問題、朝鮮人被爆者の補償問題などがあります。

 ここではその一つ一つを挙げていくことはできませんが、私が最も不思議に思うことは、なぜ日本は「アジアのドイツ」となることができないのかということです。ドイツはナチス政権下でホロコースト(ユダヤ人虐殺)や第二次世界大戦など計り知れない罪を犯しました。しかし、戦後さまざまな戦後の補償に応じてきました。西ドイツのブラント首相はポーランドのゲットー(ユダヤ人隔離地区)跡で跪いて謝罪し、そして2度とナチスの悲劇が繰り返されないようにと、ハーケンクロイツやホロコーストの正当化などナチスの関係するあらゆるものが違法とされました。いまやドイツとオーストリアではホロコーストを正当化すると処罰の対象となります。しかし、日本では「大東亜戦争」は「列強からのアジア解放のための戦争であった」「経済封鎖によってやむなく実行した」「民族自衛自存のための戦争であった」の類の主張が公然とまかり通っています。しばしば「大東亜戦争」を正当化してホロコーストを非難する人がいますが、「民族自衛自存」のための「大東亜戦争」が正当化されるならば、どうして「民族自衛自存」のためのドイツの行為が正当化されないのでしょうか。ヒトラーもドイツ民族と国を守るために政治を行ったはずです。大日本帝国とナチスドイツは一体どこが違うのでしょうか。国家予算など関係ありません。誠実な謝罪と真摯な対応が求められるのです。その上で良好な関係が築けるのです。謝罪も補償もしないで日本に有利に働いた日本軍関係者を祀ってある神社を崇拝していても良好な関係が築けないのは当たり前です。

 このようのことが起こった理由として考えられるのは、日本の非軍国主義化がドイツの非ナチズム化ほど徹底されなかったからかもしれません。ドイツではナチス指導者やナチス党の積極分子は公職を追われました。日本はどうでしょう。A級戦犯とされた重光葵や岸信介などが政界に復帰し国の要職に就きました。その影響下にある人々が今の政界に数多くいるはずです(例えば小泉純一郎や安倍晋三は岸信介の後輩にあたります)。戦後公職追放された人々も反共主義の名の下にほとんど復帰しました。その中には多数の右翼活動家たちがいました。1960年代には右翼と自民党の政治家がつながっていました。

 第2次世界大戦終結から60年以上がたち、戦争の被害者たちは次々と世を去っています。謝罪と保障のために残された時間はそう長くないのかもしれません。「民族の誇り」とかそういった問題ではありません。謝罪を拒み続けることは民族の誇りを傷つけることになるかもしれません。一刻も早い解決を望みます。

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