アメリカ大統領選挙をとらえて
11月4日、予備選挙を含め1年以上にわたったアメリカ大統領選挙は民主党の
オバマ候補の勝利により幕を下ろしました。これによってアメリカ史上初の有色
人種の血統の入った大統領が誕生します(黒人大統領と言うと語弊が生じるので
あえてこの言い方をします。彼は白人とアフリカ系の混血であり純粋なアフリカ
系ではありません)。「人種のサラダボウル」アメリカの象徴により近い大統領と
言ってよいでしょう。
しかし、オバマ候補はこれからアメリカで、ひいては国際社会で難しい舵取り
を迫られるでしょう。低所得者向けの住宅ローン、サブプライムローン不履行が
きっかけの世界同時不況とそれに伴う資源の高騰、また共和党のブッシュ大統領
が始めた「テロとの戦い」の収拾など、内政問題や外交問題が山積しています。
アメリカの威信が殆ど失墜したこの状況をどう改善するのか、その後アメリカが
どうなっていくのか、言ってみればブッシュ大統領が始めたあるいは拡大させた
問題の後始末をどうつけるかという重大な局面を受け持つこととなり、全世界が
注目することになります。
9月15日にアメリカ第5位の証券会社「リーマン・ブラザーズ」の経営破綻、
保険会社アメリカンインターナショナルグループの経営危機などにより世界中の
株式市場には売り注文が殺到し、世界金融は大きく混乱することになりました。
世界中の証券取引所で株価が近年稀に見る値下がりをし、国民の消費は減少し、
実体経済に影響を与えました。オバマ候補はアメリカ国民の95%を減税の対象に
すると主張しています。ブッシュ大統領が金融安定化法などの応急処置を施した
後にどのような対策を打ち出すかが注目されますが、少なくとも市場を野放しに
する新自由主義はしばらく非難の的となりそうです。
もう1つ、外交問題としてブッシュ大統領が2001年の同時多発テロを契機に
始めた「テロとの戦い」があります。現在、アメリカ軍はイラクに15万人以上、
アフガニスタンに8千人以上駐留しています。オバマ候補はアメリカ軍をイラク
から16か月以内に撤退させ、アフガニスタンへアメリカ軍を増派すると主張して
います。つまりオバマ候補が大統領になることは、「テロとの戦い」の終結を意味
しません。もっとも、イラク政府もアフガニスタン政府も自力で治安を維持する
自信はなさそうですが。この様子をみていると、アメリカは「テロとの戦い」を
当面終結させられそうにありません。
白人も有色人種もオバマ候補に票を投じたことは、アメリカ社会の長く抱えて
きた矛盾である人種問題が解決に向かっていることを意味すると考えられます。
その意味では祝福に値します。しかし、事実上の世界最強の権力者といえども、
国民の期待に添うのはとても難しそうです。すぐに「変革」の成果が現れるとは
考えられません。アメリカ国民が47歳の若き大統領にすぐに失望しないことを
祈るばかりです。とりあえずこのアフリカ系の血統が入った若き大統領が、今後
どのような政治を行っていくのか、真剣に見守っていくこととしましょう。日本
政府の対応に対しても同様です。