日米首脳会談と今後の日本

 416日、菅義偉内閣総理大臣がアメリカにわたり、ジョー・バイデン大統領と初めての日米首脳会談を行いました。その後発表された共同声明の中で、インド・太平洋の安全保障について日米に加えてインド、オーストラリアと連携すること、台湾海峡の安全を確保することの重要性、新型コロナウイルス対策について連携していくことを確認しました。台湾海峡の安全性、香港および新疆ウイグル自治区における人権状況について言及したので、中国は「内政干渉」としてこの会談の内容を批判しました。

日米共同声明の中には、自由と民主主義、人権、国際法と多文化主義、公平公正な経済秩序を支柱としています。まず、アメリカ政府はアメリカの国益を考えて動いています。現在アメリカが国益を考えるうえで最も警戒していることは、中国のことでしょう。日本の総理大臣と最初に会談することも、その視点から決めたにすぎません。日本の総理大臣と最初に会談すること自体にあまり深い意味を求めないほうが良いように思えます。

今年、20年近くにわたってアフガニスタンに展開していたアメリカ軍が撤退を始めました。このことから、アメリカが「世界の警察」の役割を降りる姿勢を引き継いでいることがわかります。海外に展開するアメリカ軍を縮小する穴埋めとして、同盟国に協力と負担を求めているわけです。日本もその同盟国に数えられていることが菅総理大臣の頭にあるでしょうか。確かに中国共産党による少数民族の弾圧や周辺海域における覇権主義は断じて許されるものではありませんし、自由と民主主義、人権といった概念は私含め多くの人々が支持するものです。しかし、それらを守ることは必ずしもアメリカの軍門に下ることを意味しません。共同声明に盛り込まれた自由や民主主義といった理念が諸国に連携を呼びかけるアメリカのスローガンであることは留意しておくべきでしょう。そのスローガンのもと、日本はアメリカの先兵のような役割を担わされるかもしれません。共同声明の中には普天間飛行場の継続使用を回避する代替策として辺野古新基地建設を継続する内容が盛り込まれています。環境への負荷が大きいうえに軟弱地盤で完成に何年かかるかわからない辺野古新基地建設を容認することはできません。

また、共同声明には安全で安心なオリンピック開催に向けた菅総理大臣の努力をバイデン大統領が支持すると明記されました。新型コロナウイルスの流行が終息しない中、アメリカ政府が全面的に東京オリンピックの開催を支持することはできないが、開かれたインド太平洋構想において日本の協力を得るためには明確にオリンピック中止を進言することもできないという点でこのような表現になったと思われます。現在の日本政府はこの期に及んでなお東京オリンピックの開催に固執し、感染防止対策も景気対策も十分に打つことができていない状態です。緊急事態宣言がここまで3回にわたって発出されていますが、短期間で発出しては解除しての繰り返しであり、その過程で効果測定をして施策を改善しているのかも甚だ疑問が持たれるものです。5月初旬現在、3回目の緊急事態宣言が東京と京阪神地域に発出されていますが、宣言発出と解除の客観的な根拠は乏しく、昨年の緊急事態宣言と比べれば効果は微々たるものです。511日に緊急事態宣言は解除される見込みですが、その理由は国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長来日に合わせたものという見方もあります。アメリカ滞在中、菅総理大臣はファイザー社のアルバート・ブーラ最高経営責任者と電話会談し、9月までに日本の対象者全員分のワクチンの確保を要請したとのことですが、全国民のワクチン接種は到底オリンピックに間に合いません。国内でのワクチン開発も他国に比べて進まず、専門家からもオリンピックを中止すべきという声が上がり、感染拡大のため公道での聖火リレーを中止する自治体も相次ぐ中、東京オリンピックの開催を望んでいる国民より望んでいない国民のほうが多いのではないのでしょうか。このような事態を招いたのは状況把握も意思決定もままならない菅内閣の責任に他なりません。

全世界で新型コロナウイルス流行が続く一方でアメリカと中国の対立が深刻化する中、日本は日本にしかできない役割を果たして果たせているでしょうか。中国に対して今も制裁措置をとっていない日本に対して制裁をさせるような文言がなかったことから、菅総理大臣は完全にアメリカに従属するわけではないという姿勢が若干見られます。しかしこのままでは徒にアメリカと中国の対立と競争に巻き込まれ、双方の鉄砲玉の役割を背負わされてしまいます。ただでさえ国民はコロナウイルスの脅威にさらされているにもかかわらず、他国の競争のために犠牲にする国民の生命と財産はありません。今年中には衆議院総選挙が待っています。新型コロナウイルスの感染対策も景気対策もままならないだけでなく、米中双方に足元を見られている自民党政権に対する一つの審判を国民は突き付ける必要があります。そして米中どちらかに与するでも双方に仕立てに出るわけでもなく、意見を言うべきところには意見を言う、審判の先にある日本のあるべき姿を国民一人一人追い求めていきましょう。

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