平成の終わり・令和の始まり

1989年から30年間続いた平成の時代が間もなく終わりを迎えようとしています。201941日、新しい元号として、「令和」が発表されました。430日に退位の儀が行われ、51日に徳仁皇太子殿下が即位することで「平成」が終わり、「令和」の時代が始まります。

右翼民族派は、「伝統を歪めるもの」として譲位前の新元号発表に反対するだけでなく、メーデーを避けて譲位日程を41日にし、譲位とともに新元号を発表するように要請していました。しかし、その要請は叶うことなく、新元号発表のその日に右翼民族派の1人が首相官邸で新元号発表反対のビラをまいて逮捕されました。一方、天皇制廃止を主張する団体は、即位の礼が終わるまで、さらには1123日の大嘗祭が終わるまで闘争を続けることを宣言しています。

皆様にとって平成とはどのような時代でしたか。各マスコミの世論調査では「平成はよい時代だった」という評価が過半数を占めましたが、人々にとって何が「よい時代」だったのでしょうか。私にとっては、良いか悪いかを別にして、戦後長い間使われ続けた枠組みが国内外を問わず機能不全を起こし始めた時代ではなかったかと思います。日本国内では1991年以降、バブル経済が崩壊し、長い不況の時代に突入しました。その過程で、過去に作られた規制の緩和と公社・インフラの民営化が進みました。1989年に3%で導入された消費税は、1997年に5%2016年に8%になり、今年10月には10%になろうとしています。少子高齢化も止まらず、2007年から日本人口は減少し続けています。非正規雇用は増加し続け、高度経済成長期の一億総中流から格差社会へと移行していきました。

 自民党と日本社会党の55年体制が崩壊し、本格的に連立政権の時代が始まりました。平成時代には2度の非自民党政権(細川護熙内閣、羽田孜内閣、鳩山由紀夫内閣、菅直人内閣、野田佳彦内閣)が成立しましたが、いずれも短命に終わってしまいました。そして現在、自民党の安倍晋三内閣が戦後最長の在職期間を更新しようとしています。現在までに、選挙公約や国会答弁どころかもはや中央省庁が発表している統計すら恣意的に操作され信用できないという、おそらく日本国憲法制定時にはおよそ考えがつかなかったであろう事態が進んでいます。民主主義国家どころか法治国家として最低限のモラルすら崩壊しようとしているのです。そのような状況で、施行以来70年以上に亘って改正されることがなかった日本国憲法の改正が現実化しようとしています。

冷戦が終わり、ソ連をはじめとする社会主義陣営が消滅していき、アメリカの一極化の時代が始まるのかと思われました。しかしアメリカ同時多発テロが起き、世界は「テロとの戦い」とともに混迷の時代へと突入しました。アルカイダからイスラム国へと相手が変わっても、暴力の連鎖は続いています。ヨーロッパではCOMECON、ワルシャワ条約機構が消滅し、冷戦時代のヨーロッパ共同体(EC)が発展してヨーロッパ連合(EU)が発足しました。しかし、近年は加盟国間での経済格差の問題、移民と国民の軋轢が表面化しています。また中国の台頭は著しく、2012年には中国がGDPで日本を追い抜きました。しかし、尖閣諸島や南沙諸島をめぐる他国との軋轢は絶えません。

世界にここまでの劇的な変化をもたらした最も大きなものはインターネットの急速な普及でしょう。誰でも気軽に情報を発信できるようになり、ありとあらゆる情報がインターネットに流通しています。それとともに政治、ビジネス、生活などありとあらゆるものが変わり、インターネットは社会に欠かせないインフラの一つとなっただけでなく、あらゆる人々に様々なチャンスを与える道具となりました。同時にこれまで顧みられることがなかった多くの物事を白日の下に晒すこととなり、人間や社会の醜さを浮き彫りにすることにもなりました。アラブの春など、SNSもといインターネットが運動の大幅な広がりを可能にするところもできる一方、デマや誹謗中傷、差別言動も広がりやすくなり、政治家や著名人によるSNSの投稿が大問題になることも珍しくなくなっています。情報を扱うモラルや知性だけでなく人間そのものが今後も試されていきそうです。
 第二次世界大戦後、廃墟の中から日本国憲法が作られ、それを元に日本社会は大きな変革を遂げました。しかし、先人達が終戦以降作り上げたものの意義を私たちはきちんと理解してきたと言えるでしょうか。誰も日本国憲法の語った理想を真に理解できず、その理想の実現のために必要な基本的人権の意味とともに継承することができなかった結果が現在の日本社会の閉塞した状況ではないでしょうか。天皇陛下は、戦後の昭和天皇から引き続き、日本国憲法に規定された「象徴」としての自らの存在意義を平成になってからずっと考え続けてきたはずです。今こそ、日本国憲法の前文に謳われた「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想」を私達一人ひとりが思い描き、それを実現するために「不断の努力」を始めようではありませんか。
 新元号「令和」に対して、私が感慨を抱くことは不思議なほどありませんでした。「令和」という元号は、歴史上に残る元号としては初めて日本の古典(万葉集)から採用されました。しかし、万葉集に収められている元となった歌は前漢の時代の文選から援用されていることが分かっています。日本の文化は他の文化とのかかわりの中で発展したことを忘れてはなりません。

 昭和時代はすでに遠く、平成の時代もまた歴史になろうとしています。しかし、それらは決して断絶されたものではありません。最後になりますが、平成の後、令和の時代が日本にとっても世界にとってもよい時代となりますことをお祈り申し上げます。

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