2月11日
建国記念の日 ―日本の誕生日か―
紀元前660年（皇紀元年）2月11日、大和国畝傍の橿原宮（現在の奈良県橿原市）で初代天皇である神武天皇が即位したとされています。1872年、歴史書「日本書紀」の紀年に従いこの日が紀元節と定められ、祝日とされました（この時皇紀（皇歴）も定められました）。第二次世界大戦後、紀元節は廃止されますが、1966年、当時の佐藤栄作内閣において祝日法改正が行われ、2月11日は「建国記念の日」となり、現在に至っています。
神武天皇の本名は神日本磐余彦（かんやまといわれびこ）と言います。高天原（たかまがはら）から降臨した天照大神の孫であるニニギノミコト（漢字が変換されなかったので以降この表記とします）の曾孫だそうです。日向国（現在の宮崎県）にいた神日本磐余彦は、ニニギノミコトが地上に降り立ってから地上の統一が進んでいないとして、東征を決意します。その後瀬戸内海を経て、紀伊国（現在の和歌山県）に行き、大和国（現在の奈良県）で反発する長髄彦（ながすねびこ）の勢力を倒しました。この時神武天皇を先導したのは天照大神が遣わしたヤタガラス（日本サッカー協会のロゴにもなっている三本脚のカラス）です。また、長髄彦が信仰していたのが荒覇吐神（あらはばきがみ）であるといわれており、遮光器土偶はその姿をかたどったものではないかといわれています。荒覇吐神への信仰は姿を変えて様々な場所で生き残っていると考えられています。その後52歳のとき大和国畝傍の橿原宮（現在の奈良県橿原市）で初代天皇に即位して神武天皇となり、127歳まで統治したと伝えられています。以上は奈良時代に編纂された歴史書である「古事記」、「日本書紀」などの他数々の書物によって伝えられ、それらをもとに考え出された内容です。
1872年、紀元節が定められました。1873年、当時の文部省が現在の太陽暦から干支を逆算した結果、神武天皇が即位した日は2月11日とされました。そのため2月11日が紀元節とされ、祝日とされました。1889年には江戸時代以降橿原宮の位置とされた奈良県橿原市に橿原神宮が創建されました。当然、祭神は神武天皇とその皇后媛踏鞴五十鈴媛（ひめたたらいすずひめ）です。橿原神宮の近くには神武天皇陵（神武天皇の墓）があります。1926年からは在郷軍人会や著名人によって建国祭が行われるようになりました（この建国祭を発案したのが、1951年大日本愛国党を創設し、反ロシアデーを提唱した赤尾敏です）。第二次世界大戦後、紀元節はいったん廃止されました。しかし、1966年、佐藤栄作内閣において「建国記念の日」を盛り込んだ祝日法が国会で可決され、「建国記念の日となる日を定める政令」が出され、翌年から実施されることとなりました。この日の制定には保守勢力の後押しがありました。
ところで、皇紀（皇歴）は神武天皇が即位した年を元年として数えます。したがって、西暦に660年を足せば皇紀となります。例えば、西暦1940年は皇紀2600年です。日本軍の零式艦上戦闘機（ゼロ戦）はこの年に開発されたのでこの名があります。
右翼民族派はこの日を「日本誕生の日」とし、橿原神宮に参拝したり、奉祝街宣を行ったりします。右翼民族派にとっては皇室の歴史は日本の歴史と一体のようです。また、多くの左翼団体は天皇制と愛国心の押し付けだとしてこの日に反対し、抗議活動を行います。天皇制の下で弾圧されてきた歴史が左翼団体に影響しているようです。
即位したのが弥生時代前期であること、127歳という寿命が考えられないことなどから、神武天皇の存在は現在ほとんど否定され、後世の創作とされています。また、朝鮮半島にもよく似た神話が伝わっているそうです。そもそも神話とは、その神話を持つ民族を正当化するためのものであり、ほとんどの場合史実をそのまま表現しているものではありません。しかし、神話が作られる時、たいていの場合何らかの事実からインスピレーションを得ています。神武天皇の神話がどのような事実からインスピレーションを得ているかはわかりませんが、神武天皇が他の民族を侵略し、その神々を神話に取り込んでいったと考えられます。よく言えば神々の存在を認めた、悪く言えば神々を歪めたものといえます。ある意味で外から都合の良いものを都合よく取り入れるという、日本人の価値観を裏付けているとも言えますが。建国記念の日は、祝日法により「建国をしのび、国を愛する心を養う」日とされています。国を愛する心を養うのは自発的なものである限り構いませんが、神武天皇の即位と日本の誕生は同一であるとは考えられません。そもそも神武天皇の即位は架空の出来事である可能性が高いわけですし、日本の誕生というものがどういうことなのか解りません（ちなみに日本という国号が定められたのは、飛鳥時代・天武天皇の時代とされています）。私見でとても乱暴だと思いますがサンフランシスコ講和条約が締結された4月28日を「独立記念日」とした方が現実的な根拠があって良いように感じます。