テロ等準備罪いわゆる「共謀罪」

 今年3月、組織犯罪処罰法改正案が国会に提出されました。この改正案は523日に衆議院で、619日に参議院でそれぞれ可決され、711日から施行されました。これによりテロ等準備罪いわゆる「共謀罪」が規定されました。国会での答弁は空転し、国連からも懸念が示されると同時に国内で反対運動が盛り上がっているにもかかわらず、与党は参議院で「中間報告」という緊急手段を使ってまで強行採決しました。同時期に沸き起こった加計学園の汚職疑惑も満足に解明できぬまま、国会は閉会しました。

 この改正案では、277の犯罪に準備行為を罰する規定が盛り込まれています。文化財保護法、種苗法、絶滅のおそれのある野生動物の主の保存に関する法律、モーターボート競争法、競馬法、著作権法、特許法など、到底テロ対策になりうるとは思えない法律が含まれております。安倍総理大臣はこの法案がなければ東京オリンピックを開催できないと言っていたのですが、そもそもオリンピック開催の命運を握りそうな内容が見当たりませんし、仮に必要であったとしてそもそもそのような状態でなぜ東京オリンピックを誘致したのでしょうか。パレルモ条約に加盟するためといいましたが、そもそもパレルモ条約自体はマフィアなどの国際犯罪組織を主な対象として制定されたもので、テロ対策を想定したものではないとパレルモ条約の立法ガイド作成者の一人であるニコス・バッサス教授が語っております。そもそもパレルモ条約の立法ガイドには犯罪組織への加入を処罰する法律を制定すれば必ずしも共謀罪を制定する必要がない旨が記されており、これまでに制定されてきた予備罪などの運用で加盟可能という見解が日本弁護士連合会から出ております。国会でも花見の下見に持っていく所持品が弁当か地図かでテロ等準備罪適用が左右されたり、「そもそも」という単語が「基本的に」という意味であると閣議決定されたりと、政府関係者の無理解、意味不明な答弁や閣議決定などで国会は空転しました。そして何も身のある議論ができぬままただただ時間が浪費された挙句に十分な時間がかかったという理由で強行採決されました。

 この姿勢には国際社会も疑問の声をあげました。ジョゼフ・カナタチ(ジョン・ケナタッチ)国連特別報告者は今回の法案について安倍総理大臣あての書簡を送付しました。その書簡には国内でも指摘されている処罰範囲の不明瞭さ、組織犯罪対策とは関係がなさそうな罪状への適用、プライバシーの侵害、(特に国益に関する問題に密接にかかわる)NGO活動の委縮、さらには立法過程の不透明さや議論の不足が指摘されていました。しかし、安倍内閣はこの書簡を不適切であるとして「強い抗議」をしましたが、ケナタッチ氏によると指摘に対する反論が何もなく、ただの怒りが書かれていたということでした。更に安倍総理大臣は一連の書簡送付をケナタッチ氏が国連を代表する立場ではない個人で行ったものと矮小化しました。

 森山正仁法務副大臣は「通常の団体に属し、通常の生活を送っている一般の方々は操作の対象にはならず、処罰されることはない」と明言しましたが、一方で国会において「何らかの嫌疑がある段階で一般の人ではないと考える」と答弁しています。この時点で明らかに「疑わしきは罰せず」の原則に反するものです。特定機密保護法審議の際も反対運動をテロ行為呼ばわりする論調がありましたが、今回のテロ等準備罪においても沖縄でアメリカ軍基地建設に反対する方々や国会前で街宣活動を行う方々をテロリスト呼ばわりする論調がありました。政府が圧政に抗議の声を上げる民衆にテロ等準備罪を適用しない保証はありません。ましてや法律を実際に運用するのは警察です。この法律がなくとも民進党や共産党を監視対象にしている警察がさらなる圧力をかけないと言えるでしょうか。ネット右翼はテロ等準備罪で左翼(と彼らがみなすもの)を一網打尽にできると喜び勇んでおりますが、そもそもこれが左翼にしか適用されない保証がありませんし、仮にネット右翼のイメージする左翼が政権を掌握したとき共謀罪による弾圧の対象にされるのはネット右翼です。第二次世界大戦まであらゆる思想・運動を弾圧する法的根拠となった治安維持法も制定当初、一般人には適用されないという答弁がなされ、制定されたのです。実際に左翼だけでなく、多くの右翼民族派もテロ等準備罪に対して危惧の声を上げています。

 言うまでもないことですが、テロ等準備罪に反対する方々も、たいていはテロ行為自体を肯定していません。しかし、テロ対策はあらゆる通信手段を監視し、密告を奨励する監視社会を醸成してよい免罪符にはなりませんし、国家権力に盲従しなければならない理由にはなりません。今回、国会を「茶番」に変え、国民を物言わぬ国家の駒に変えようとする法律を制定するという自民党安倍内閣の横暴をまた一つ許す結果となってしまいました。共謀罪が可決・成立してしまった今、あらゆる集団が警察の捜査の対象になる可能性があります。私もそのうちの一人でしょう。しかし、逮捕のリスクを恐れて声を上げないことは安倍政権の術中に落ちることになります。政権与党に批判を加えれば警察に監視・拘束される社会となる前に、共謀罪廃止、森友・加計学園問題の徹底解明、そして自民党安倍政権打倒に向けて国民が声を上げなければなりません。

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