安倍晋三内閣退陣

 828日、安倍晋三内閣総理大臣が辞意を表明しました。これにより新型コロナウイルスの感染拡大収束など困難な問題を多数残したまま第二次安倍晋三内閣は歴代最長の約78か月で退陣することとなりました。第一次安倍内閣と同様、体調の悪化による総辞職です。

201212月から第二次安倍内閣の78か月の間、日本は株価と見せかけだけの経済成長と引き換えに民主主義国家どころか法治国家として見る影もなく衰退してしまいました。就任した当初、日本銀行による異次元の金融緩和によりリーマンショックの後遺症から脱したのはまだ評価できますが、その一方で実体経済は停滞していき、政治・経済・科学技術などあらゆる分野における日本の国際社会における地位は低下していっただけでなく、法治国家の基本たる三権分立は軽んじられました。2013年の特定機密保護法・2014年の集団的自衛権行使容認と2015年の安保法制・2017年のテロ等準備罪制定による国家の強権拡大、森友学園、加計学園に対する利益誘導、それを起点とする公文書改竄、そして今年の後手後手に回るコロナウイルス感染対策など、日本国内における安倍内閣の「功績」は枚挙に暇がありません(詳しくは過去の時局問題をご覧ください)。日韓関係は悪化し、外交・軍事におけるアメリカへの依存度は高まる一方で、ロシアから北方領土を取り戻すことはできず、北朝鮮に拉致された拉致被害者は誰一人として帰国しておらず、中国には中途半端な態度を取り続けています。報道の自由度は民主党時代に比べ大幅に下がり、忖度と馴れ合いが横行する日本社会になってしまいました。企業の利益と株価の配当は上がれども、その恩恵が国民のもとに来ることはなく、国民の6割以上は平均所得以下の所得で生活しています。そこへ2016年・2018年の2度の消費税増税と相まって消費は落ち込んでいきました。衰退する日本の姿は政府統計方法の変更、改ざんなどでごまかしてきたのです。第二次安倍内閣下の日本社会は「ポスト真実」の社会を体現していたといえるでしょう。たとえそれが嘘にまみれた幻だったとしても、衰退していく日本の姿を見たくない、世界に誇れる日本の姿だけ見ていたい、安倍内閣はある意味でそれを実現してきました。それと引き換えに、国民の権利は軽んじられ、政府の統計は信用できなくなり、国会はただ議論をした事実を作るためだけの場となりました。

安倍総理大臣がただ史上最長の在任期間を更新するためだけにこの日まで在任してきたのであれば、なんとむなしいことでしょうか。今回体調悪化で辞任を決断したことはかろうじて誉められますが、私は安倍内閣に対する労いの言葉など持っておりません。しいてかける言葉を挙げるとすれば、「震えて眠れ」でしょうか。安倍首相を労わない人間を罵倒する者たちのどれほどが、2011年に東日本大震災の対応途中で辞任した菅直人元首相に労いの言葉をかけたのでしょうか。私はどちらも労う気になりませんでした。史上最長の在任期間を誇りながら、肯定的に評価できる業績がほとんどないこの内閣は、むしろ安倍総理大臣自身がお飾りとして在任させられていたのではないか、とすら疑いたくなります。立憲民主党の石垣のりこ参議院議員のように安倍総理大臣の病気を揶揄する気はありませんが、安倍総理大臣の病状と安倍内閣の功罪は全く関係ありません。職務遂行に支障をきたすほど体調が悪いのであれば、安倍総理大臣は一切の公職を辞して療養に専念すべきなのです。

今月14日、事実上次の内閣総理大臣を決める自民党総裁選挙が行われます。8日に告示され、菅義偉官房長官、岸田文雄政務調査会長、石破茂元防衛大臣の3人が立候補しています。誰が当選してもおそらく安倍内閣の残した後遺症に苦しめられるとは思いますが、最低限国会できちんと野党議員と会話できる総理大臣であってほしいものです。石破茂衆議院議員は今回の総裁選挙にここで出なければ今後チャンスはないという思いから本意ではないながらも立候補したのでしょうが、政治家として成功したいのであればどこかで自民党を離党するしかありません。そうしなければこのまま惰眠を貪って党内のガス抜き担当になるだけでしょう。

野党側は次の衆議院総選挙に向けて準備を急ぎ進めるべきです。今月、国民民主党と立憲民主党がそれぞれ解党し、新しい「国民民主党」と「立憲民主党」が発足しました。旧立憲民主党の枝野幸男代表が新しい立憲民主党の党代表に選出されましたが、こちらは全く話題に上がりません。野党の足並みがそろわないまま次の自民党総裁が決まり、その勢いで次の衆議院総選挙が行われたら野党は極めて厳しい状況に置かれます。安倍内閣の下で国会が空転した理由には野党と与党で会話が成り立たないことも大いにありますが、会話が成り立たないと分かったときに解散・総選挙のキャスティングボードを握れなかった野党側に決め手がなかったことも大きかったといえます。そもそも旧民主党政権を経ても、党の中枢を占める人物があまり変わらないのに加えて、国民の間に根強く残る民主党への嫌悪感が今も尾を引いている状況では、よほどの大きな出来事と世代交代が起こらない限り注目を浴びるのは難しいでしょう。今は難しくても時間がかかっても政権交代ができる野党を育てるのも有権者の仕事です。

何より、私たち国民が日本に生きている当事者として声をあげ、政党や政治家を動かさなければ未来に同じことが繰り返されてしまいます。現在の日本の姿は、法の支配も憲法も権利も義務も戦後長い間「わかったふり」をしてきた日本社会の行きついた結果でもあります。安倍前総理大臣は秋葉原駅で自分に罵声を飛ばす民衆を「こんな人たち」と言いましたが、こんな人たちもそれ以外も関係ありません。安倍内閣、いや安倍内閣を生み出した日本国民が破壊した日本国の再建はこれから私たちのすべてが始めなければなりません。

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