アメリカ大統領選挙

 113日、予備選挙まで含めて1年以上かけて行われたアメリカ大統領選挙が終わり、民主党のジョー・バイデン元副大統領が現職のドナルド・トランプ大統領を史上まれにみる接戦の末に破る見込みが高まっています。これにより政権党は共和党から民主党に移り、バイデン候補は来年1月アメリカ大統領に史上最高齢(78歳)で就任することになります。

トランプ大統領は2017年に就任してから就任してから、メキシコ国境での壁建設、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱、温室効果ガスの排出削減を促すパリ協定からの離脱、イラン核合意の破棄など、国際協調を軽視し自国の利益を中心とした施策を続けましが、その一方でシリアへの空爆を除くと大規模な軍事行動は抑えられている面もありました。アメリカ国内では分断と対立が広がり、警察の暴力や人種差別の問題が再び注目を集めることとなりました。こうしてアメリカ国内のみならず、世界各国でトランプ大統領の政策や行動に対する批判が沸き起こりました。

2020年に入ってから、中国で発生した新型コロナウイルスがアメリカでも猛威を振るっています。日々数万人の感染者が発生しても脅威を軽視するトランプ大統領に失望が広がりました。トランプ大統領は感染の拡大が始まった当初、中国の対応を称賛してすらいましたが、このままでは落選すると見たのかのちには陰謀論をも交えた中国への攻撃を繰り返しました。しかし、一度失われた支持を回復するのは困難で、バイデン候補を擁した民主党の勢いに勝てず、ついに落選することとなりました。トランプ大統領は選挙結果を認めず、法廷闘争も辞さない様子ですが、アメリカ国民のほとんどはバイデン候補を新たな大統領と認めつつあります。

トランプ大統領は当選する前から海外に展開しているアメリカ軍の縮小と経費削減を何度も訴えていました。トランプ大統領が安倍内閣を評価したのも単にアメリカ製の商品を大量に取引し、在日アメリカ軍の予算を確保してくれるからとみられます。2018年、安倍晋三総理大臣が拉致問題についての交渉を日米首脳会談で要請した一方で、トランプ大統領はアメリカ大統領として初めて北朝鮮の金正恩総書記と会談しました。朝鮮半島の非核化交渉は結果として失敗しましたが、会談自体が画期的な出来事であったことは否定できません。トランプ大統領から見れば中国も北朝鮮も取引相手であり、諸外国からアメリカの国益を引き出すことが外交の最大の関心事と言って過言ではないでしょう。どのような形であれ、東アジアの秩序と安定が在日アメリカ軍および在韓アメリカ軍の削減というトランプ大統領の目論見に沿うものであるとみられます。そういった意味ではトランプ大統領より民主党のバイデン候補のほうが取引の相手になりうるかどうかを気にせず、中国に対しても強硬な態度に出る可能性があります。現に中国政府が警戒しているのはバイデン候補のようです。

そもそも誰が大統領に就任しようが、アメリカ大統領はアメリカ合衆国のために働く者なので、日本は日本の立場で行動するしかありません。どういうわけか日本でトランプ大統領の再選を願う(そして今回の大統領選挙が不正選挙であるという)声が多く聞かれましたが、選挙権も持てない他国の大統領選挙に何を期待しているのでしょうか。上記の通り、トランプ大統領が中国に厳しい態度をとるのは自分あるいは自国のためであり、日本のためではありません。むしろ中国に対して強い姿勢を期待できるのはバイデン候補ではないでしょうか。いずれにせよ大統領がバイデン候補に変わったところで、日米安保条約や日米地位協定が即座に破棄されるわけでも、辺野古の新基地建設がいきなり凍結されるわけではありません。これを機に日米同盟の在り方の再考、在日アメリカ軍基地の規模縮小、新基地建設の中止を検討するべきです。間違っても日本がアメリカの言いなりになってアメリカ製の兵器を大量に購入することが日米同盟の強化であってはなりません。

今回のバイデン候補の当選は、バイデン候補への期待というよりトランプ大統領への失望の結果であるといえます。バイデン候補が新しいアメリカ大統領に決まっても、新型コロナウイルスの流行は依然として世界中で続いています。それも相まって国民が分断され、社会不安が広がっているアメリカが今後たどる道は生易しいものではなく、バイデン候補に向けられた期待は簡単に失望に変わってしまうかもしれません。世界各国の首脳はバイデン候補の当選に祝意を示していますが、これからアメリカと世界はどう動くのか、菅内閣に日本独自の動きができるのか、目が離せません。

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