中国問題

逃亡犯条例改正案が立法府に提出されたのをきっかけに昨年4月から半年以上にわたって市民による抗議活動が続いた香港で再び抗議活動が巻き起こっています。今年5月、国家保全法を香港に適用する法整備が中国本国の全国人民代表大会で始まりました。この法律は中国国家の統一性を脅かす恐れのある動きを取り締まる法律で、中国本土では2015年より施行されていました。この法案は新聞からインターネット上の書き込みまであらゆるメディア上の発言を制限するものです。この法案は言論の自由を脅かし、ひいては香港の自治も脅かす恐れのあるとして香港市民は再び立ち上がりました。連日国家保全法の撤回を目指して抗議デモが行われ、逮捕者が続出しています。またデモに参加していた人が次々とSNSでの投稿を削除するなど、すでに言論の萎縮ともみられる動きも始まっています。これに関連してか天安門事件から31年の香港における追悼集会が政府当局により不許可となり、有志によって無許可の集会が行われました。抗議活動は今なお香港だけでなく日本をはじめ世界で続けられています。

この動きに対し当初各国の動きは自国の新型コロナウイルス対策のため低調でしたが、アメリカやEU諸国がこの法案に対する批判の声を上げ始めています。その一方でアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアによる共同声明の呼びかけを日本政府は拒否したことを共同通信が報じました。与党の国会議員にはこの報道を否定する方もいますが、少なくともその記事を菅義偉官房長官はあえて否定しようとしていませんでした。

中国政府による言論統制は世界に類を見ません。国家体制の維持のために人工知能などあらゆる最先端技術をつぎ込んでいます。海外のウェブサイト接続は制限され、中国共産党を批判するようなコンテンツは閲覧できません。中国国内での少数民族や民主化活動家に対する弾圧は長らく世界各国からの非難を浴びてきました。政府のリソースの多くを言論統制につぎ込む国家など長く続いてはなりませんし、中国政府は統治の正当性を自由な言論でもって示すべきです。

中国政府の行っている弾圧は非難を浴びてしかるべきですが、かといって中国人へ差別・排斥は現に慎むべきことです。中国人が悪いわけではありません。今年に入って全世界で流行している新型コロナウイルスによる肺炎も武漢肺炎、中国肺炎などの呼び名も止めるべきです。また今回流行している新型コロナウイルスがウイルス兵器などという陰謀論めいた言説も出ていますが、そういったものにも安易に飛びついてはなりません。陰謀論は社会を混乱させるだけです。

翻って、果たして日本国民は国家保全法のような法律が制定されたら、どれだけの人が反対するでしょうか。仮に日本が中国の領土となったとき、日本国民にとってどのような不利益が考えられるでしょうか。言うまでもないことですが、私は中国の領土になってよいと考えているわけではありません。しかし果たして日本国民はこれまで本当の意味で自由を欲したことがあったでしょうか。安倍政権の下で制定された改正組織犯罪対策法など、場合によっては国民の自由を制限する法律がこれまでも国会で(とても十分とは言えませんが)審議され、成立してきました。法案を審議している間、多くの国民が懐疑、反対の声を上げましたが、その時に自民党安倍政権は国家や社会の安全のためにそれらの法整備が必要だと訴えたのではありませんか。中国共産党が主張する国家保全も安倍政権の言う国家や社会の安全も、自らの権力維持のために都合よく吹聴している謳い文句にすぎません。

国家保全法撤廃を求める香港市民の運動は香港市民にとって自らを守る闘いであり、賛同者は一人でも多くいるに越したことはないでしょう。そこに日本国内のイデオロギー闘争は関係ありません。しかし、昨年も申し上げましたが、自由が何のために存在するのか、私たち一人一人が考える必要があります。香港で現在起こっている問題から私たちが学ぶべきことはたくさんあるはずです。香港市民の運動に賛同の意思を示しつつ、彼らの考えと闘争を十分に理解するものでありたいです。

(以下81日追記)

今年630日、国家保全法が香港にて発効しました。発効されてから現在までに抗議デモ参加者から民主派の香港立法会議員までが当局に次々と逮捕されています。現地で民主化運動を行っていた団体も解散し、散り散りになってしまいました。また立法会議員選挙もコロナウイルス流行を理由に1年延期され、民主派候補12人の立候補資格が取り消されました。こうして中国共産党による香港への管理が着々と強化されています。

未だ新型コロナウイルスの猛威が収まらない中、イギリス政府が300万人の香港市民に対し自国の市民権を認めるなど、世界各国が中国政府と対峙するとともに、香港市民への救援の手を差し伸べようとしています。中でもアメリカと中国の対立が深刻さを増しています。先月、アメリカ政府はテキサス州ヒューストンにある中国領事館を「スパイの拠点」として閉鎖を命じました。中国政府は対抗して成都にあるアメリカ総領事館を閉鎖しました。コロナウイルス抑制に失敗したトランプ大統領が再選のためになりふり構っていられないことを差し引いて考える必要があるでしょうが、中国政府の政策が国内的にも対外的にも問題があることは確かでしょう。

日本政府の動きは諸外国に比べれば鈍く、これまで通りの非難を繰り返しているだけで、具体的な行動はとっていません。中国の船による尖閣諸島近海への領海侵犯も頻繁に起こっていますが、こちらへの反応もあまりありません(私は現場レベルの対応でいいと思います)。中国に関する問題に限らず、コロナウイルス対策などをはじめとした政策を実行させるために自民党安倍内閣を動かすために私たちに何ができるのか、一人一人が考えていかなければなりません。

最後に、香港市民をはじめ中国共産党の横暴に抗い続けるすべての人々への敬意と連帯の表明をいたしましてこの記事を締めたいと思います。

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