靖国神社問題

 最近、内閣総理大臣や国会議員など国家の要職にある人の靖国神社参拝が大きく報じられます。なぜでしょうか。

 まず靖国神社はただの神社ではありません。靖国神社は1879年明治維新で死んだ人の霊を祀っていた招魂社を改称したものです。招魂社は全国にありましたが、東京のものだけが靖国神社となり、残りは護国神社となりました。以来靖国神社は国が起こした紛争で死んだ軍人などを合祀し続けてきました。太平洋戦争で靖国神社の英霊は国民の戦意を高揚させるよい宣伝材料となりました。当然日中戦争や太平洋戦争で死んだ軍人も靖国神社に祀られました。そして戦後も自衛隊員などが祀られ続けています。1978年当時の宮司である松平永芳によって絞首刑に処されたA級戦犯が祀られました。

 靖国神社を参拝するのは国のために死んでいった人に敬意を払うことで当たり前の行為だという人がいれば、戦犯が祀られているから参拝しないというのは人間として何かが欠けているという人もいます。そうでしょうか。

 まず、公務員の靖国神社参拝はどうでしょうか。これは確実に憲法第20条に反しています。日本国憲法第20条の第3項には「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と書かれています。公務員は少なくともマスコミに曝されているときは公人と考えるべきでしょう。メディアを介して不特定多数の人に見られているからです。一切参拝するなとは言いません。ただ全体の奉仕者たる公務員の態度としてメディアの前で参拝するのはどうかということです。ましてやその場で公務員の肩書を記帳して参拝することはいけません。もっと言えば正月に首相が伊勢神宮に参拝することも違憲ではないかと思います。首相在任中は一切の宗教行為を控えた方が良いでしょう。政教分離をきちんと守らなければなりません(どうしても参拝するならマスコミのいないときに参拝すべきです)。

 次に、祀られている人はどうでしょうか。靖国神社には戦死者に交じってA級戦犯として処刑された人が交じっています。戦争を指揮し多くの残虐行為を指揮したとされています。A級戦犯はいわば殺人鬼、平和の敵、悪魔とされる人々です(最も軍人という仕事自体が殺人鬼となることを要求する仕事ですが)。彼らはナチスドイツを率いたヒトラーやゲッベルスやリッペントロップやゲーリングなどと何が違うのですか。ヒトラーが絶対的悪とされるのに日本のA級戦犯はどうして「英霊」とされるのか分かりません。彼らが日本の繁栄の基礎を作ったという人がいますが、何の基礎でしょうか。大日本帝国を解体に追い込み、日本国憲法を基調とした日本の基礎というのならば分かりますが。彼らが英霊ならばヒトラーも英霊でなければなりません。そのA級戦犯を崇拝するのはどうかと思われます。

 また、英霊の中には合祀を望まなかった人も多数います(たいていの英霊は合祀されることなど考えていないでしょうが)。A級戦犯の東条英機もそうでした。合祀を取り消してほしいという外国人の日本兵の遺族の方もいます。これは護国神社(地方の靖国神社にあたるもの)における事例ですが、合祀される意思がないのに合祀され訴訟を起こした自衛隊の遺族の方もいます。また、1975年以来、天皇陛下(と昭和天皇)は靖国神社に参拝していません。昭和天皇は戦犯が祀られたからだと側近に漏らしていたことがわかりました(このような発言は捏造であるともいわれますが)。そういうことを考えると、現世を生きる人々どころか、祀られている英霊にも申し訳ないような気がします。

 さらに、靖国神社には遊就館という博物館があります。これは日本兵の手記や日本兵の遺品などを展示する博物館です。そこでは、太平洋戦争を「皮膚の色とは関係のない自由で平等な世界を達成するための」戦争としています。歴史問題の項でも述べますが、太平洋戦争は、日本が資源を獲得するための侵略戦争です。そうでなければ、どうして日本の文化や言葉を押し付けたのでしょうか。どうして、プランテーションの作物を変えさせたのでしょうか。それらは日本の植民地拡張政策と呼べるのではないのでしょうか。兵士たちは純粋にアジア解放のためと思いこんで死にました。解放とは程遠い現状を目の当たりにして、死の直前に、あるいは死後に、アジア解放が嘘だったこと気付いて、しかも後世アジア解放のために死んだと伝えられるのならば、死んでいった日本兵の霊はどう感じるでしょうか。終戦後に独断で本当に植民地独立のために戦った人もいますが、そういう人とどちらが多いでしょうか。また、確実に他のアジアの人々を傷付けます。無理解、内政干渉では済まされません。こんなに戦争正当化が公然と行われていることが世界に広く知れ渡ればどうなるでしょうか。

 普通の人が靖国神社に参拝するのは止めません。信教の自由です。死者を弔うことは普通のことです。ただ英霊が靖国神社に祀られていること、靖国神社を参拝することの意味をもう少し考えてみてはいかがでしょうか。

 右翼民族派に問います。あなた方は、天皇に背いて戦犯を崇めるか、天皇を尊重して戦犯を崇めないか、どちらを選びますか。また、あなた方が同調するのは、開戦を決定した軍部ですか、それとも前線に赴いた兵士たちですか。

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