サミットをとらえて

 今年519日から521日にかけて、サミット(主要国首脳会談)が広島県広島市で行われました。G7EU以外にインド、インドネシア、韓国、ベトナム、コモロ、オーストラリア、ブラジルが参加したほか、ウクライナからゼレンスキー大統領が来日し、サミットのウクライナ問題セッションに参加しました。そこでまたインド、オーストラリア、アメリカとの4か国首脳会談やウクライナとの首脳会談も行われています。一方で広島市内各所では様々な団体や個人による活動が行われました。

 岸田文雄総理大臣は今回サミットを平和都市広島で開催し、アメリカとウクライナ含む参加国首脳の広島平和記念資料館見学と原爆慰霊碑への献花を実現しました。それだけでなく平和記念公園内の韓国人被爆者慰霊碑に大統領とともに献花を行いました。そのような状況を実現したという点で広島サミットは歴史的な意味がありました。しかし今回のサミットに参加した首脳たちが広島の地で経験したことを今回の首脳声明から読み取ることは困難です。広島と長崎のことは首脳宣言の冒頭に少し書かれているだけで、あとはロシアの核恫喝や北朝鮮やイランの核開発を非難する内容でした。核廃絶どころかロシアを念頭に「我々は、ロシアに対し、 同声明に記載された諸原則に関して、言葉と行動で改めてコミットするよう求める。我々の 安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、 侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべきとの理解に基づいている。」と核兵器の威力に頼ることを否定しないような内容でした。もちろん核兵器使用をちらつかせたロシアの恫喝や北朝鮮の核開発は絶対に止めなければなりませんが、そのために核兵器による抑止を是認するのはかえって核開発競争を煽ることになり、本末転倒です。被爆地広島を訪問し、核兵器使用の悲惨さを少しでも学んだ結果がこれなのかと被爆者団体から失望の声が上がったのは当然でしょう。むしろ広島の地で開催したがゆえに失望はより大きかったとさえ思えます。

核兵器を保有しているフランス、イギリス、アメリカは率先して核廃絶に向けて動き出さなければなりません。少なくともイギリスは放射線被害を残す可能性のある劣化ウラン弾のウクライナへの貸与を撤回すべきです。日本政府も広島・長崎市長や被爆者団体が長らく加盟を求めている核兵器禁止条約加盟に向けて動き出すべきでしょう。何よりアメリカは広島と長崎への原爆投下が核兵器を用いた虐殺であり、戦争犯罪であったと認め謝罪すべきでしたが、2016年のオバマ大統領に続いてバイデン大統領からも原爆投下を謝罪する言葉はありませんでした。他国の主権を武力で侵害し、非戦闘員を殺害し、核兵器の使用をほのめかして国際社会を恫喝するロシアの行為を絶対に容認できるものではありませんし、国際社会は核兵器の保有・使用が絶対に許されないことを明確に示すべきです。その一方で、国家がなぜ核兵器を持とうとするのか、その根本的な理由を考えねばなりません。なぜ世界中の国々が核兵器を保有したがるか、その原点は第二次世界大戦後の国際秩序が戦勝国の武力を背景に作られているからにほかなりません。今年のウクライナ侵攻で見せたロシア政府とウクライナ政府の態度はそれを鮮明に示しています。常任理事国が力による現状変更を是としているから、世界各国は軍拡競争をやめないし、究極の武力である核兵器を捨てられないのではありませんか。アメリカはロシアの核兵器の使用をほのめかす発言を非難しましたが、世界で唯一実戦において核兵器を使用したアメリカが原爆投下を犯罪行為あったと認めなければその抗議は大国のご都合主義にしかなりません。ウクライナへの支援とロシアへの制裁を否定するつもりはありませんが、日本はサミット議長国として単にウクライナ・NATO側と軍事的に一体化するのではない、もっと別の道を示すことができたのではないでしょうか。

 このサミットの完遂で支持率が上がった岸田内閣は近く衆議院総選挙に踏み出すのではないかという見方もあります。確かに今回の広島サミットは歴史的なサミットになり、岸田内閣の支持率が上がるのはもっともだと感じます。しかしその陰で出入国管理法改正案、LGBT理解推進法案など、サミット議長国としての面子を保つための法案審議が進んでいることを忘れてはなりません。出入国管理法は難民申請中でも難民を強制送還できるようになり、LGBT理解推進法案は中途半端なものとなりました。日本政府としては長年国際社会で批判されている難民受け入れ問題やダイバージェンスの問題に取り組んでいるとアピールでき、G7各国もロシアや中国に対抗してくれる限り内実には目をつぶりながら歓迎する、そのような構図も透けて見えます。

 今回のサミットはロシアのウクライナ侵攻を大いに非難し、参加国は対ロシアのために結束することとなりました。しかしその陰で見落とされることもたくさんあるのです。私たちは主権を担う者として果たして日本がこのまま進んでいいのか、修正すべきなのか最終的に判断しなければなりません。

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